ねぇ、ハク・・・。



約束の日が来たよ。



約束通り、1年待ったよ。



だから、もう開けていい?

















プレゼント
















私だけの秘密。

それは朝になると、町から離れた森の中に必ず現れる男の子。

名前はハク。

ペットの猫が帰ってこないから探しに森の中にいた私は偶然ハクと出会った。





「何か探しモノですか?」





必死に探していた私にハクは笑顔で問いかけてきた。





「昨日から帰ってこない猫を探しているんだけど・・・。」





「それは心配ですね。僕も一緒に探しますよ。」





それが私とハクの最初の会話だった。



















ハクは旅をしている。

理由があって自分の生まれ故郷には戻れない。

「誰かとケンカしちゃったの?」

「謝ってみれば?」

そう言うと、ハクは微笑んだ。











理由は聞けない。

だけど、その理由に感謝する。

だって。

ハクが旅をしてなければ、出会うこともなかった。





ハクが旅をしていてくれてよかった。













それからというもの、私は苦手な早起きをして毎朝森に向かう。

ハクに会うために。

「ハク。おはよう。」

さん、おはようございます。」

「今日も薬草摘んでるの?」

「はい、ザブザさんがまた怪我をしてしまって・・・。」

「ザブザさん、よく怪我するねぇ。」

「そうですね。」

苦笑するハク。





ザブザさんとはハクと一緒に旅をしている人。

怖そうな人。

いつもハクをパシリにしてる。

だけど・・・。

ハクを見るその目はとても優しい。

それを知ってから、私の中でザブザさんは『不器用な人』となった。















「私、実は今日、誕生日なんだ。」

「そうなんですか?もっと早く教えてくれれば贈り物とか用意してたのに・・・。」

「だって、ハクのこと驚かしたかったんだもん。」

「僕を驚かしてどうするんですか。」

ハクがくすくす笑ってる。

「あ、じゃあ・・・・。」

そう言って、ハクは木の根元に生えていた花を摘み差し出した。

「こんなものしかあげられないけど・・・。」

「ううん。十分だよ。ありがと・・・。」

気恥ずかしく思いながら、ハクから花を受け取る。

名前の分からない白い花。

ハクの花。

「来年の誕生日も同じ花欲しいな。」

「え?そんなものでいいんですか?」

「うん。来年も、再来年も・・・ずっと、ずっと・・・・。

 1輪のこの花を毎年もらえるなんて・・・・ステキじゃない?」

さんはロマンチストなんですね。」

ハクが微笑んだ。

「誰でもいいってわけじゃないよ!

 ハクだから・・・だよ?」

自分の言ってることに顔を赤くする。

「そうですね・・・・。」

ハクが空を見上げる。

「ずっと・・・・・ずっと・・・・あなたのそばで毎年祝えたら・・・ステキですね。」

私にはハクがどこを見ているのか分からなかった・・・・。







空を見つめて朝日を浴びるハク。

その姿は神秘的なもので。

私は目を離すことができなかった。































今日も私は森へ行く。

だけど・・・。

いつもの場所にハクはいなかった。

いくら待っても来なかった。

「おっそいなぁ・・・・。」

しゃがんでいる私は膝を抱きこむ。

風が吹く・・・。

「・・・・え?」

気付くと森全体が霧に包まれている。

真っ白な世界。

「・・・・さん。」

「うわっ!」

突然背後にハクがいて私は驚く。

「驚かせてしまってすいません。」

「ううん、大丈夫。それよりこの霧・・・・。」

「・・・・・霧隠れの術・・・・。」

「キリガクレ・・・・?」

「ザブザさんにお願いして術を使ってもらってます。」

「なんでそんなこと・・・・。」

私の質問に・・・・ハクが淋しそうに微笑む。







もしかして・・・・。







「もう・・・・行かなければならなくなりました。」

「ハク・・・・?」

「今までずっと黙ってましたが・・・・僕とザブザさんは・・・追われている身なのです。」

「あぁ・・・だから旅をしてるんだね。」

「僕達は忍びで・・・・里を捨てました。

 が、里を抜けた忍びは一生追われ続け、果てには・・・・。」

「・・・・・・・。」

「そして、最近奴らに僕達の居場所が知られてしまった。」

「・・・・・ハク?」

さん・・・・いままでありがとう。」

「・・・・行っちゃやだよ・・・・。」

さんと過ごした時間は僕の大切な宝物です。」

「・・・・約束したじゃない・・・・。」

「もう猫を見失ってはいけませんよ?」

「来年も・・・・再来年も・・・・花をくれるって・・・・。」

「・・・・・・。」

ハクの消えそうな笑みを見て・・・・私の腕が伸びる。

だけど・・・。

掴んだと思ったハクの腕はそこにはなかった。

「・・・・いつもの場所から・・・・北に行くと小さな小屋があります。」

背後からハクの声がする。

「振り返らないで。」

振り向こうとする私の肩をハクが掴んで動きを止める。

「・・・・・その小屋の窓際にある棚の下から3段目の引き出しを開けてください。

 ただし、1年後の・・・・あなたの誕生日に開けてください。」

「・・・・・私の・・・・誕生日・・・?」

「そう・・・・それが今の僕にできる精一杯の・・・・贈り物・・・。」

不意にハクの腕が肩を離し、私の前に腕を伸ばした。

「・・・・本当に・・・・ありがとう・・・。」

抱きしめられて動けない私の耳元でハクの囁く声が聞こえる。

「・・・・さんに出会えて本当によかった・・・。

 さんと同じ時間を少しでも過ごせてよかった・・・。」

「・・・・ハク・・・・・。私も・・・連れてって・・・・。」

前に回されているハクの腕を抱きしめる。

「・・・・僕は・・・・あなたのことが大切です・・・。

 今も、これからも・・・。」

抱きしめていたはずのハクの腕が・・・。

私の腕の中から消えていた・・・。

「・・・・ハク・・・・。」

微かに残るハクの感触を失わないように。

腕を・・・・体を・・・・抱きしめる。

涙がポロポロこぼれる。







どうして連れてってくれないの?

私のことが大切なら・・・・隣に・・・・いさせてよ・・・・。













「悪いな・・・・。」









どこからかザブザさんの声が聞こえた気がした。









私が落ち着いて泣き止んだ頃、霧は晴れていた。




















































そして1年。

私はハクに言われた通り、北にある小屋にいた。

その小屋は人が住むにはあまりにも汚くて小さくて。

でも、ここでハクは生活してたんだ・・・と思うと全てのものに愛着がわく。

「窓際の棚の下から3段目・・・・。」

目的の棚の前に立つ。

「ねぇ、ハク・・・。約束の日が来たよ。

 約束通り、1年待ったよ。

 だから、もう開けていい?」

目を閉じて、ハクに問いかける。

私の中のハクが微笑んでいる。

引き出しに手を伸ばして中を開ける。

「・・・・・ハク・・・・・。」

自然と涙がこぼれる。

引き出しの中にはたくさんの白い花の押し花が・・・。

ちゃんと1輪1輪、紙に貼られていて・・・。

「ハク・・・・ちゃんとプレゼント・・・・受け取ったよ・・・。」

私は1輪の押し花を胸に抱いた。













ねぇ、ハク・・・・。

ハクが私を連れていかなかったこと・・・少し恨んだりしたけど・・・。

今はハクが正しかったと思える。

だって、私は忍びの世界のこと・・・・何も知らない。

私なんかが一緒にいたら、きっとすぐに捕まっちゃう。







ねぇ、今ハクはどこにいるの?

ハクとザブザさんのことだからきっと無事だよね。

でも・・・・気をつけてね。

逃げて、逃げて、逃げまくって・・・。

最後には私のところに帰ってきて。

そして、毎年誕生日に白い花をプレゼントして。

それまでは・・・・この押し花たちで我慢する。

毎年1輪をプレゼントとして。









ずっと待ってるから。

ハク・・・。

気をつけてね。

























「・・・・あ・・・・。」

窓の外を見ると・・・・雪が降っていた。









ハクです。
これはある方の誕生日に捧げています。
Mさん、あなたですから!!
でも、死ネタ・・・(泣
ごめんなさい・・・。

初ハクだったのですが、いかがでしたか?
イメージ、ぶっこわしちゃってたらゴメンナサイ(┰_┰)

BGMはお地球見の丘より。様よりお借りしました。