『ポリシー』





明け方5時。

カンクロウの朝は早い。

まだみんなが寝ている間に起きる。

そして、シャワーを浴びさっぱりさせる。

そして・・・・。

体中の水滴をふき取った後、彼は化粧水に手をのばした。



ピシャッ ピシャッ ピシャッ ピシャッ



慣れた手つきで顔に馴染ませる。

次は違う化粧水を手に取る。



ピシャッ ピシャッ ピシャッ ピシャッ



そしてまた・・・。



ピシャッ ピシャッ ピシャッ ピシャッ



そして、今度は乳液。



ヌリヌリ ヌリヌリ ヌリヌリ

乳液は5種類使う。

「あ、これもうすぐなくなるじゃん・・・。買ってこないと・・・。」

最後の乳液の残量を確認する

洗面所を出たカンクロウは自室に戻り、自分専用の鏡台の前に座る。

ずらり・・・とならべられた化粧品。

チラッと窓の外を見た。

「今日は天気よさそうじゃん・・・。UVカットを使うか・・・。」

そう呟くと引き出しを開け、沢山のファンデーションの中からすばやく1つだけ取り出す。



パタパタ パタパタ パタパタ パタパタ



「うん、完璧じゃん・・・。」

化粧水、乳液に拘っているためか化粧ののりがいい。

「さて・・と。次はメイン・・・。」

今度は筆と化粧パレットを取り出す。

そして・・・。




2時間後、カンクロウの顔にはいつもの模様が書かれた。

「あっ!これももうないじゃん!」

手に持っていたパレットを見て残念そうなカンクロウ。

パレットは新品のように色とりどりに彩られている。

しかし、紫だけがない。

全くない。

「・・・またテマリに買ってきてもらわないとダメじゃん・・・。」

ぶつぶつと言いながら化粧品を片付けている。

現在7時半。

起床してから約2時間半。

カンクロウは唯一この時間に幸せほ感じていた。













「おはよー。」

テマリが眠そうにダイニング入ってきた。

「おう。」

カンクロウは機嫌がいい。

「テマリ、今日ちょっと買い物に行ってほしいんだけど・・・。」

「今日はだめ。私でかけるし。」

「頼むよ!□□の化粧水と△△のパレットを買ってきてくれ!」

「またぁ?勘弁してくれよぉ・・・。」

テマリは呆れている。

「□□の化粧水って遠くのデパートにしか売ってないから行きたくないんだけど・・・。」

「頼む!俺のポリシーを守る為に・・・・!」

必死に顔の前で手を合わせてお願いするカンクロウ。

「ふぅ・・・・分かったよ。」

テマリはなんだかんだと弟に弱い。

「テマリ!助かるじゃん!!」

カンクロウの顔が明るくなる。

「朝から騒々しい・・・。」

我愛羅が入ってきた。

「お、おはよー。」

「おっす。」

テマリとカンクロウは我愛羅に挨拶した。

我愛羅は不眠症で毎朝機嫌が悪い。

「な、なぁ。我愛羅。俺の今日のメイク、どうだ?

 今日は自信あるんだ!」

カンクロウは我愛羅に顔をよせた。

「うざい・・・。」

我愛羅はカンクロウの顔を手のひらでつつみ、一気に手を横に引く。

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

カンクロウの悲鳴。

「な、何すんだよぉ!折角2時間かけてメイクしたのにぃぃぃ!」

「・・・・朝からうるさいからだ・・・。」

顔を押さえ涙ぐみながらダイニングを飛び出すカンクロウ。

もう1度シャワーからやり直す・・・。

















そんなカンクロウ。

2度目のお手入れのときに今度は違う化粧水がなくなってしまい、自分で買いにいくこととなった。

(なんで化粧品コーナーには女しかいないんだよ・・・。入りづらいじゃん・・・。)

カンクロウもお年頃の男の子。

女ばかりのコーナーにはいささか入りづらい。

(買うものは決まっているし、さっさと買って帰ろう。)

カンクロウは一直線に目的の化粧水が置いてある場所に行き、

手早く取って歩き始める。

「あーもう。なんでこんなに化粧水って種類多いのかなぁ・・・。」

突然耳に入った女の子の声。

ついつい振り返ってしまう。

「あー・・・どれも同じか?んじゃこれでいいや。」

女の子は適当に化粧水を手に取る。

「あぁ!それにするならこっちの方がオススメじゃん!」

カンクロウは手に持っていた化粧水を女の子に差し出した。

「そっちは値段が高いわりにすぐ乾燥しちゃうじゃん。

 だけど、こっちはそれより値段がお手ごろなのにしっとりしてくれてかなりいい感じ。

 あ、つーか、お前は乾燥派?べたつく派?」

「え・・・わかんない・・・。」

「だめじゃん。

 まずは自分の肌を知っておかないと!

 んー、年からして俺と同じくらいだからべたつく派だと思うから・・・。

 やっぱこれがオススメじゃん。」

女の子に関係なく話し続けるカンクロウ。

「・・・・・・。」

「これはマジでいいから・・・。」

「詳しいね。」

自分の言葉を遮るように聞こえた女の子の声。

それに初めて我に返る。

「・・・・・・って姉貴が言ってたから・・・・。」

咄嗟にテマリのことを言う。

「そっか。じゃ、こっちにする。」

女の子はにっこり笑ってカンクロウの持っている化粧水を取り、そのままレジに向かった。

カンクロウも恥ずかしそうに化粧水を持って女の子の後を追う。











なんとなく二人は一緒に店を出た。

「さっきはありがとう。」

女の子はにっこり笑った。

いっぱいあるから迷っちゃった。」

「き、気にすることないじゃん・・・。」

女の子の笑顔があまりにも可愛いからカンクロウは顔を赤くする。

「お礼に一緒にお茶しよ。奢ってあげる。」

「え?」

「私、って言うの。あなたは?」

「か、カンクロウ。」

「カンクロウ・・・・じゃ、カンちゃんね。」

はカンクロウの手をとって喫茶店に向かった。











カンクロウは何を話したか覚えていない。

目の前にいるかわいいにうっとりしていたから。

身の回りにいる女と言えばテマリしかいない。

(もしかして・・・・俺は初めて女の子に誘われたわけじゃん!!!)

自覚した途端に余計緊張する。

「あ、もうこんな時間か・・・。」

は店内の時計を見て呟いた。

「長話しちゃってごめんね。」

「いいや、俺も楽しかったじゃん。」

カンクロウは余計顔を赤らめ、下を向いた。

「じゃ。」

は手を挙げカンクロウに背を向けた。

「あ、あの・・・・!」

咄嗟に呼び止めてしまった。

振り返り不思議そうな

「・・・・・また化粧品のことで分からないことがあったら・・・・聞いて来いよ。

 俺も・・・姉貴に・・・・聞いてくるから・・・・。」

またもやテマリ。

しばらく考えていただったが、にっこり笑った。

「もしかしたらこのまますんなり帰すのかと思ってビクビクしちゃったわ。」

はバッグからメモとペンを取り出し何かを書いてカンクロウに渡した。

「私の家の電話番号。いつでも電話してよ。」

「お、おう。」

「じゃねっ!」

は顔を赤くしてカンクロウに背を向けて走り去った。

カンクロウはそんなの背を見送り、渡されたメモを見つめる。

心なしか手がワナワナと震えている。

「よっしゃぁぁぁぁぁぁ!とうとう俺にも春到来じゃぁぁぁぁん!!!」

大切にメモをしまって上機嫌にスキップをしてカンクロウは家に帰った。











それからというもの、カンクロウとは何度も会った。









初めて会ったときから3ヶ月がすぎた。

(そろそろ・・・・いいかな。)

カンクロウは唾を飲み込む。

「な、なぁ。。」

「何?」

「あ・・・のよ・・・。その・・・。」

「はっきりいいなよぉ。カンちゃんらしくないよ。」

はケタケタ笑っている。

「・・・俺と付き合ってほしいじゃん!!!」

カンクロウは顔を真っ赤にして頭を下げた。。

「1つ、質問していい?」

「ん?」

意外な反応にカンクロウは頭を上げた。

「カンちゃんの顔のその化粧って、お姉さんに無理やりやられてるんだよね?」

「あ、あぁ・・・。」

カンクロウは焦った。

前にに顔の化粧のことを聞かれたとき、咄嗟にテマリのせいにした。

毎朝、メイクの練習台にされている・・・と。

なんとなく自分でやってる・・・とは言ってはいけない気がしたから。

「私、カンちゃんの素顔って見てみたいな。」

「えっ!」

「カンちゃんが・・・メイクを止めてくれたら即オッケーしちゃうんだけどな。」

「えぇっ!!」

「だって素顔を見せてくれないと信用できないし・・・。」

「えぇぇぇっ!!!!」

「じゃ、次会うときに素顔で来てね。」

うれしそうな笑顔で走り去る

「・・・・・・・そんな・・・・。」

呆然と立ち尽くすカンクロウ。













それからと言うもの、カンクロウは悩んだ。

悩んで悩んで・・・。

悩みすぎて肌が荒れた。

のためにメイクを止めるか・・・。)

ため息が出る。

(いや、メイクは俺のポリシーだ!止めるわけにはいかないじゃん!)

口をへの字に閉じる。

(だけど・・・・あんなかわいい子と付き合えるチャンスなんて・・・もうないかも。)

再びため息。

(俺は・・・・・どうすればいいんだ・・・)















そしてとうとうやってきました運命の日。

習慣となったシャワーを浴びる。

そして・・・。







「おっす。」

カンクロウはいつもより遅れてダイニングに入った。



カチャーン・・・・・。



既に朝食を食べ始めていたテマリと我愛羅の動きが止まった。

二人して箸を落としている。

眼がピンポン玉のようにまん丸だ。

「ど、どーしたんだい!」

テマリはかなり驚いている。

「いや・・・ね。実はさ。」

化粧をしていないカンクロウがニシシ・・・と笑い、二人に事情を説明した。







「ってわけで、俺はメイクを止めることにしたじゃん!」

カンクロウはガッツポーズを作った。

「・・・・馬鹿馬鹿しい・・・・。」

ぼそっと聞こえる我愛羅の声。

「自分を偽って付き合ったとしても続くわけがない。」

「我愛羅!」

我愛羅の言葉をテマリが止めようとした。

「本当に好きなのなら本当の自分でぶち当たるべきだと思うがな・・・。」

口元を拭き、我愛羅は席を立った。

「カンクロウ、気にすることはないよ。

 あんたのことだ。

 一生懸命悩んで答えをだしたんだろ?

 それならそれでいいと思うよ。」

「テマリ・・・・サンキュー・・・。」

我愛羅の言葉が胸に響く。

(本当に好きなのなら・・・・本当の自分で・・・。)

しばらく椅子から立ち上がれなかった。

















カンクロウは待ち合わせ場所に向かった。

「あ、かんちゃー・・・・。」

カンクロウを見つけて笑顔を向けただが、すぐに顔を曇らせる。

「かんちゃん、その顔・・・。」

「あぁ、これが俺じゃん。」

カンクロウの顔はいつもと同じメイクがされていた。

「私、言ったよね?素顔が見たいって・・・・。」

「ごめん・・・。だけど、これが俺だから・・・俺のポリシーだから・・・。」

「え・・・・?」

「今まで黙ってたけど・・・。

 メイクしてるのは俺自身なんだよ・・・。」

「・・・・・・。」

「男がメイク・・・なんて恥ずかしくて言えなかったじゃん・・・。

 だけど、これ言わないと始まらないし・・・。」

「・・・・それって・・・・・。」

「・・・・これが俺だから・・・・ごめん・・・。」

カンクロウはに頭を下げて背を向けた。



(これで・・・・いいんじゃん・・・。

 俺からメイクを取ったら・・・俺じゃないじゃん!!)



カンクロウの顔はすっきりしていた。

























「テマリ、これどう?」

「あー・・・・うん。」

「これって中々難しいじゃん・・・・。」

カンクロウはダイニングでアイラインの練習をしていた。

「・・・・・おい・・・・・。」

喉が渇いた我愛羅はダイニングに入ってきて立ち止まった。

「・・・・今度は・・・・何をしている・・・・。」

「いやぁ、我愛羅のおかげで俺にとって何が大切か気付いたじゃん?

 だから、どうせならとことん極めようと・・・あ、はみ出した・・・。」

いそいそとティッシュに手を伸ばし、はみ出した部分をふき取る。

「テマリ・・・。」

我愛羅に呼ばれ、テマリは呆れたように手を振った。

「・・・で、ビューラーをっと・・・・いてて・・・。」

ビューラーでまぶたをはさんだらしいカンクロウの悲鳴。

「・・・・俺は・・・間違ったことを言ったのか・・・?」

「いや、我愛羅は正しかったんだけど・・・ね。」

二人のやり取りを気にせず今度はマスカラを手に取るカンクロウ。

「・・・・ふん。」

我愛羅はそっとカンクロウの後ろに回り、真剣なカンクロウの頭を小突いた。

「うわぉぉぉぉぉぉぉっ!!!眼がぁぁぁぁぁぁっ!」

マスカラのブラシが眼に入った。

「我愛羅!」

カンクロウは涙目で我愛羅をにらむ。

その涙目のせいで頑張って書いたアイラインがくずれる。

「・・・・変な顔だぞ。」

「お前のせいじゃん!こうなったらお前にもやってやるじゃん!」

我愛羅の頭を押さえ込むカンクロウ。

「・・・よ、よせ・・・・。」

少し焦る我愛羅。

「眉毛ないから書いてやるよ!しかもウォータープルーフだっ!」

押さえつけたまま器用に我愛羅に眉毛を書き込む。

「よし、完成じゃん!」

やっと我愛羅を開放したカンクロウは満足げだ。

「あ、うまいじゃないか。」

テマリは我愛羅に書かれた眉毛の形に口笛ほ吹く。

「だけど・・・・・。ぷっ。」

途端に噴出す。

「ぶあはっはっはっはっはっ!」

カンクロウも堪えていたらしく笑い出す。

しっかりと眉毛を書かれて鏡を片手に自分を確認する我愛羅。

「やっ、やっぱ我愛羅に眉毛は・・・に、似合わ・・・。」

腹を抱えて悶絶しているカンクロウ。

そっと足元に砂が集まる。

「う、うわっ!我愛羅!悪かった!」

体にまとわり付く砂に恐怖を覚え、カンクロウは叫んだ。

「・・・だから我愛羅に手を出すのはやめたほうがよかったんだ・・・。

テマリは呆れていた。

















「・・・・落ちない・・・。」

顔中に水滴をつけたまま鏡の中の自分の眉毛を確認して不機嫌に我愛羅は呟いた・・・・。

それから丸1日我愛羅は自室から出てこなかった。









初のカンクロウです。
いかがだったでしょうか?
カンクロウのメイクって自分でやってるのかなぁ・・・。
と、いう会話から生まれたこの話。
幸せにしてあげたかったけど・・・。
カンクロウにはまだ春は早い・・・?
そんな気がしましたo(≧∇≦o)(o≧∇≦)o