どんなに遠くにいても必ず帰る
どんなに長くなっても必ず帰る
任務のたびにそう言っていた
貸したモノ
「。」
「あ、シカマル。どーしたの?」
突然私の仕事先に現れたシカマル。
「ちょっと・・・・話があるんだ・・・・。」
「もうすぐで休憩だから待ってて。」
「あぁ。んじゃ、いつものトコロでな。」
シカマルは店を出て行った。
いつものトコロ。
私の働いている店の近くにある噴水。
そこがいつものトコロ。
私はなるべく早めに仕事を終わらせて休憩に入った。
お昼過ぎということもあってそんなに人はいない。
キョロキョロしてシカマルを探す。
「あ・・・シカ・・・・・・。」
シカマルをみつけて駆け寄ろうとしたけど・・・。
シカマルの真剣な顔を見て足を止める。
いつもならどんなに少ない時間だとしても寝そべっているのに・・・。
今はちゃんとベンチに座って・・・・何かを考えている。
何を・・・・考えているの?
「あ、・・・来てたんなら声ぐらいかけろよな。」
シカマルが私に気付いた。
「・・・・めんどくせぇんだもん。」
私はわざとシカマルの口癖をまねしてシカマルの隣に座った。
「で、どーしたの?シカマルが仕事先に来るなんてめずらしいじゃない。」
「あ?そぉか?」
「うん。多分初めてだよ。」
「そっか・・・・。」
あ・・・・。
まただ・・・・。
シカマルは何かを考えている。
「話って?」
「あぁ・・・・実は・・・・さ。」
何か考えながら・・・・ううん、言葉を捜している。
「いつものシカマルらしくなぁい!」
「・・・・任務、行くことになった。」
「いつから?」
「・・・・・今から。」
「・・・・・そっか。でも、いつものことじゃない?」
シカマルが上忍となってから急な任務が増えた。
だから会うとしたらこうやって突然・・・しかなかった。
「・・・今回は・・・ちと長期になりそうなんだわ・・・・。」
「そっか・・・。」
「・・・・。」
「頑張ってね。」
「必ず帰ってくるから。」
「うん。」
「必ず・・・・帰ってくる。」
シカマルは組んでいた手に力を入れている。
「!ごめん!お店戻って!」
遠くから店長が私を呼んでる。
「まだ休憩時間ですよぉ!」
「急に混んできたんだ!」
「えー・・・・。」
私が頬を膨らませる。
「戻ってやれよ。」
「でも・・・。」
「それも仕事のうち。よくが俺に言ってたことだろ。」
いつもめんどくせぇ・・・と言っているシカマルに私が言っていたこと。
「用件はそれだけだからよ。」
「・・・うん。」
「あ・・・。」
立ち上がったシカマルが私を見た。
「これ・・・借りていいか?」
私の首にかかっているネックレスに触れた。
「・・・・お気に入りだけどいいよ。男物だからシカマルに丁度いいかも。」
私はネックレスを外してシカマルの手の上に置いた。
「サンキュー。」
「うん。絶対壊さないでね?」
「わぁってるよ・・・・それと・・・・。」
「ん?」
「いや・・・いいわ。また今度で。じゃぁな。」
「うん。気をつけてね。」
歩き出したシカマルの背に声をかけ、シカマルは手を振った。
ねぇ・・・・。
シカマル。
どうして目が赤かったの?
どうして手が震えてたの?
どうして私のネックレスを借りたの?
何を言いかけたの?
その晩、見事な満月だった。
シカマルの言っていた通り、シカマルはなかなか戻ってこなかった。
1週間。
1ヶ月。
半年。
1年。
ねぇ、シカマル。
今どこにいるの?
そして3年。
シカマルは戻ってきた。
殉職という知らせだけが・・・・。
「うそだ・・・・。」
信じなかった。
「・・・・任務に行ったことは知ってるよね?」
いのが言いにくそうに呟く。
「私も任務の内容は知らされてないけど・・・・。」
「帰ってくるって言ってたのよ・・・・?」
「・・・・。」
「必ず帰るって・・・・。」
手が痺れる。
「これ・・・・。」
いのが差し出したのは・・・・・。
「の・・・・だよね?」
シカマルに貸したネックレス。
「・・・・・っ!」
「!」
遠くでいのの声がする。
私はどんどん遠ざかる意識の中・・・・。
シカマルだけを呼んでいた。
私は噴水にいた。
とても働く気になれない私は仕事も辞めた。
と、言うかクビ。
あれから私はずっと噴水に来ていた。。
もしかしたら帰ってくるかもしれない。
そう思ったらここから離れられない。
人のいい店長だったけど、他の店員に示しが付かない・・・ということだ。
そんなの、別にいい。
夜になってシカマルの仲間達が来てくれた。
「・・・・風邪・・・・ひくぜ。」
キバ君が私に上着をかけてくれた。
「お腹、すいてるでしょ?」
サクラが私の手の上にサンドイッチを置いてくれた。
「飲み物もあるってばよ!」
ナルトがお茶を差し出してくれた。
だけど・・・・。
私は関心を示さなかった。
だって・・・・。
ここにシカマルがいない。
シカマル以外・・・・目に映らない。
「・・・・私・・・・まだ言ってない・・・。」
ぽつ・・・・と呟く。
みんなが止まる。
「・・・・シカマルに・・・・好きだって・・・・。」
涙が溢れる。
「いつも・・・・そこにいて・・・・。
任務に行っても必ず戻ってきて・・・。
めんどくせぇ任務だったぜ・・・・・って・・・。
笑ってたから・・・・。
・・・・私、いつまでも続くって・・・・。」
首にしているネックレスに触れる。
「・・・・こんなの・・・返さなくていいから・・・。
戻ってきてよ・・・・。
ねぇ・・・シカマル・・・。
帰ってきたら私に言うことあるんでしょ!
ねぇ・・・・ねぇってば!シカマ・・・っ!」
「っ!」
泣き叫ぶ私をいのが抱きしめる。
「・・・・ごめん。」
キバ君が謝った。
「・・・・その任務・・・・俺も一緒だった・・・。」
「キバ!」
キバ君をいのが止める。
「・・・・・一緒・・・・?」
虚ろな目をキバ君に向ける。
「・・・・あのとき・・・俺たち、敵に追われてて・・・。
シカマルが残って陽動するから逃げろって・・・・。
これをに返してやってくれって・・・・預かってきた・・・。」
「・・・・シカマルを・・・・置いて・・・たの?」
「あいつには影真似もあるし頭いいし!
あいつなら絶対大丈夫だって思ったんだ!
それで俺は援軍を呼びに行って・・・!・・・・行って・・・。」
キバ君が俯く。
「・・・・・俺たちが戻ったときには・・・・・。」
「・・・・シカマルを・・・・一人で・・・・。」
芽生える怒り。
燃え始める憎しみ。
「なんでそのときシカマルを連れていかなかったのっ!!
二人で逃げればシカマルだけが死なずにすんだのにっ!!
なんで・・・・!なんでぇ・・・!!」
「!仕方なかったのよ!」
サクラが叫ぶ。
「忍びは任務遂行を第一とする。
遂行後、速やかに撤退し、一人でも多くの生存を優先する。」
シノ君が呟く。
「・・・・なに・・・それ・・・・。」
笑いがこみ上げる。
「・・・・一人でも・・・?
その中に・・・・シカマルは入ってないの・・・?
なにそれ・・・・。」
「・・・・悪かった・・・・。ごめん。」
キバ君の謝罪。
「分かんない・・・・・そんなの・・・・忍びのことなんて・・・・。」
「・・・でも、お前が好きだった相手は忍びだった。」
それだけ言って、シノ君が去っていく。
「・・・・シカマルはめんどくさがり屋だったけど・・・。
忍びであることにプライドを持っていたわ・・・。
だから上忍にまでなった。
・・・・・シカマルとキバを・・・・責めないで・・・。」
いのの言葉が心に刺さる。
「・・・・・・ごめん。一人に・・・・して。」
私はいのを突き放した。
「・・・・・・・。」
みんなが去っていく。
シカマル。
めんどくさがり屋だけど、やることはちゃんとやる。
ぶっきらぼうだけど、優しい。
誰よりも仲間を大切にする。
「忍びは任務遂行を第一とする。
遂行後、速やかに撤退し、一人でも多くの生存を優先する。」
あぁ・・・。
だから・・・ね。
だからキバ君を先に行かせたのね。
キバ君はすばやいし、野生的に鼻がいい。
敵を避け、誰よりも早く援軍を呼んでこれる。
だから・・・。
でも・・・。
それでアンタが死んだら・・・。
すべて、意味がないじゃない・・・。
せっかく呼んできてもらった援軍も。
キバ君を先に行かせたのも・・・。
今回は・・・シカマル。
アンタ、頭悪いよ。
「本当に・・・・悪かった。」
気付けば、キバ君が前に立っていた。
「・・・・俺が・・・残っていればよかったんだ・・・。
俺が代わりに・・・。」
「キバ君。」
私はキバ君を呼ぶ。
「もう・・・・いいから・・・・。」
「・・・・。」
「シカマルは・・・・そういう奴だから・・・。」
私は微笑む。
力のない微笑。
「シカマル・・・・ネックレスを預けるとき・・・。
キス・・・してた・・・・。」
「・・・キス?」
「ネックレスに・・・・。
大事そうに・・・・幸せそうに・・・・・・。」
「・・・・・・・。」
シカマル。
私にキス・・・・してよ。
見上げればいつかのような見事な満月。
そして、シカマルの死を受け入れてしまった自分。
涙が・・・・溢れた。
3年後。
私は来ていた。
シカマルの最後の地に。
火影様にワガママを言って。
まだ危険な場所だから・・と、キバ君と一緒に。
「・・・・・ここに寄りかかってたんだ・・・・。」
キバ君は1本の樹の根元を指した。
「・・・・・うん。」
私はしゃがみ、シカマルが最後に触れていた場所に触れる。
シカマル。
ネックレスをはずし、その場に置く。
「いいのか?」
「うん・・・・あれは・・・・シカマルから直接返してもらわないと意味がなかったの。」
「・・・そっか。」
「行こう。」
「・・・・あぁ・・・・。」
どんなに遠くにいても必ず帰る
どんなに長くなっても必ず帰る
任務のたびにそう言っていた。
でも、アンタは戻ってこなかった。
アンタが忍びである以上、こういう事が有り得なくもないことは分かってた。
だけど・・・。
せめて、私の気持ちを聞いてから・・・・。
貸したモノはちゃんと自分で返してよ。
それが礼儀ってもんでしょ?
だから・・・。
またアンタに貸してあげる。
大切にしてね。
初めての死ネタでしゅ。
気持ちが届けられる前に・・・・。
なんとも残酷なことなんでしょう。
もどかしさいっぱいです。(だったら書くなって!
とある方からのクリエストなんですが・・・。
怒られそうです。