普通の日だった。
すっかり忘れてた。
だけど、お前のおかげで特別な日に変わった。
1年の中で、こんな幸せな日だったなんて初めて知ったよ。
今年だけじゃなく、来年も、再来年も、その次の年も・・・・。
ずっと、ずっと・・・。
お前と一緒にいられたら・・・いてくれたら。
11時59分
「ハイ、コレ。」
「お疲れ様です。」
アカデミーで今日の任務の報告書をイルカ先生に提出した。
「最近、ずっと任務続きですね。」
「そうなのよ。いくら俺でもいい加減ぶっ倒れちゃうよ。」
「カカシ先生なら大丈夫ですよ。」
爽やかなイルカ先生・・・・だけど、たまに毒を吐く・・・。
つられてハハハ・・・・とは笑ったものの、心の中でぶっ飛ばしてやった。
最近、本当にずっと任務が続いてて・・・・。
折角の休みだと思っても、伝令の鳥が飛んできちゃうから泣く泣く任務へ行くしかない。
折角の休みなのに・・・。
折角と一緒にいるのに・・・。
とは付き合いだしてもうすぐ5ヶ月が立つ。
定食屋の看板娘で、元気があって笑顔の似合う女性。
一目惚れ・・・・って言うのかな・・・。
今まで好きだと思って付き合ってきた女が全部女じゃなくなった。
俺の目にはしか女として映らない。
初めて会ったその日から俺はその店の常連となった。
まずは顔を覚えてもらった。
次には名前。
しばらくして、俺の好みを知ってもらって・・・・。
仲良くなってから何回か飲みに行って酔った勢いで・・・・。
「俺と付き合ってみない?」
と、告白した。
はびっくりしたみたいだったけど、
「いいですよ。」
と、微笑んだ。
そんな俺たちだから、この5ヶ月間、何もできないでいる。
酔っ払っていた自分。
そんな俺に告白されて返事をした。
がどこからどこまでが本気なのか、全く分からない。
だから・・・・下手に手を出して嫌われたら・・・って思うと・・・。
何もできないんだ・・・。
だから休みのときはと楽しい時間を過ごして一緒にいる時間を増やしたいのに・・・。
なぁぜか、任務が続くんだよねー・・・。
「明日はお休みですから、安心してください。」
自分の世界にどっぷりはまっていた俺はハッと我に返り、まだイルカ先生の前にいたことを思い出した。
「・・・・本当に?」
つい疑いの眼を向ける。
「本当です。待機の当番でもないし。」
ホラ・・・と、出勤予定表と待機所当番の表を見せてくれた。
「んー・・・本当だ。」
「ゆっくり休んでください。」
「・・・・・でも緊急の場合とか・・・。」
「そのときはまた鳥で呼び出しますから。」
イルカ先生の笑顔に負けて、俺は肩をがっくりさせてアカデミーを後にした。
次の日。
俺はの作ってくれたお弁当を幸せと一緒に噛み締めていた。
「どうですか?」
「うん、おいしいよ。」
「あ、お茶もありますよ。」
「うん、ありがと。」
さすが。
定食屋の看板娘というだけあって、即席とはいえお弁当は最高においしい。
「ごめんね、急に誘っちゃって。」
「いえ、カカシさんはお忙しい人ですから。
でも、そんな貴重なお休みを私なんかで潰しちゃっていいんですか?」
「と一緒にいれる貴重な時間を任務なんかで潰しちゃってる・・・・でしょ。」
「そんなこと言ってると怒られちゃいますよ。」
くすくす笑う。
でも、本心だったんだけど・・・ね。
「ご馳走様でした。」
「いつになく早いですね。しっかり噛まないとダメですよ?」
「習慣なんだよねー。」
空になったお弁当箱を丁寧に片付けてに渡した。
見上げればポカポカ陽気。
自分達の周りには他に人はいなくて。
心地いい程度の風が吹き抜ける。
「あー・・・お腹もいっぱいになったことだし。」
「また読書ですか?」
には俺の次の行動が分かるらしく(これも習慣か?)またくすくす笑ってる。
「んー・・・じゃあ、今日はお昼寝ってことで。」
そのままごろん・・・と後ろに倒れた。
「もおいで。」
「え?」
「気持ちいいよ。」
「・・・じゃあ・・・。」
は誘われるままに俺の横に寝っ転がった。
サワサワ・・・・。
葉の擦れる音。
んー・・・いいねぇ。
平和を感じるよ。
ふいに気になってを見れば。
も気持ち良さそうに目を閉じていた。
抱きしめたい・・・・な。
スケベ心ではなく、ただ単純に思った。
そういうときって、体は素直に動く。
「カ、カカシさんっ!!!」
急に抱きしめられたはびっくりしてる。
「ごめん。でも、ちょっとだけこのままでいさせて・・・・・。」
「・・・・・はい。」
全身を緊張させながらも大人しくじっとしててくれた。
初めてだった。
初めて、を抱きしめた。
しかも、は抵抗しない。
これって・・・さ?
「・・・・。」
「・・・はい?」
俺に呼ばれて顔を上げたに。
キスをした。
刹那。
ドンッ・・・・!!
俺はに弾き飛ばされた。
「ご、ごめんなさいっ!!!!」
「あ・・・いや。俺が悪かった。ごめん。」
顔を真っ赤にさせて謝るに俺も謝る。
突然のキスに驚いて当然。
だけど・・・・。
の本心が分かった気がした。
「あ・・・。」
俺は空を見上げる。
「ごめん。呼び出しだ。」
苦笑しながら空の鳥を指差して見せた。
「・・・・・そう・・・・ですか。」
「うん。さっきは本当にごめんね。じゃ、行かなくちゃ。」
「気をつけてくださいね。」
「うん、分かってる。」
「あ、あの・・・・!!!」
飛び去ろうとした俺をが呼び止めた。
「何?」
俺は早く行きたいのに・・・・。
「1週間後って、仕事ですか?」
「んー・・・まだ分からないけど・・・多分・・・。」
「じゃあ、何時でもいいので私と会ってもらえませんか?」
「何時でも?」
「はい。任務の後でもいいので。お時間は取らせません。」
「・・・・分かった。」
「待ってます。」
「じゃ・・・。」
「はい。」
の返事を聞いて、俺は走った。
本当は空を飛んでいた鳥は伝令の鳥なんかじゃない。
ただあの場にいたくなかったから・・・。
ウソをついた。
嫌な・・・・予感。
もしかしたら・・・・言われるかもしれない。
別れの言葉。
1週間後?
何時でもいい?
改めて何を言うの?
しかも、さっき・・・・。
キスを拒んだ。
もう決定的じゃないか。
1週間後に俺はに言われるんだ。
『さよなら』と・・・・。
任務に出たいときに限って、入ってこないんだよねー・・・。
大してやることもなく待機所に入り浸って、早1週間。
そう、との約束の日。
なんとしても今日は任務に出たい!
欲を言えば長期任務!!
さらに欲を言えば里外!!!
でも・・・・。
「あれぇ?カカシ。1日ここにいたのぉ?」
「朝から晩までご苦労ね。」
今日の任務を終えたアンコと紅が待機所に入ってきた。
「何、カカシ。今日ヒマなの?」
「・・・・ま、そういうこと。」
「じゃあ私たちと飲みに行く?」
「もうすぐアスマも帰ってくるし。」
「どこで飲むの?」
「予定ではいつもの居酒屋だけど?カカシが場所を気にするなんてめっずらしぃ。」
いつもの居酒屋。
よし。
「その飲み会、俺も連れてって。」
ダラダラモードから心機一転。
アンコと紅と一緒に元気に待機所を出た。
の顔が頭に浮かんだよ。
浮かんだけど・・・さ。
これから別れ話させられると思うと・・・・。
どうしても待ち合わせ場所に近づけなかった。
一緒に行った場所はとの待ち合わせ場所から歩けば1時間はかかる場所にあった。
「んでは!!乾杯!!」
アンコの盛大な音頭と共にそれぞれのグラスをカチン・・・と重ねる。
「アスマは何時ごろ来るの?」
「今日中には来るわよ。」
「・・・・そうですか。」
クールな紅に苦笑しながらビールを一口。
アスマは今日中に来る・・・か。
じゃあ、ずっとここにいれば今日という日は終わる。
「・・・・久々に飲むか・・・。」
手にしていたグラスの中身を一気に飲み干した。
どれぐらいの時間がたったのか。
かなりのハイペースで飲んでいたからさすがに酔っ払ってる。
「どぉしたのよぉぉぉぉ?カカシが酔っ払うなんてめっずらしぃぃぃぃぃ。」
俺以上にベロベロのアンコに言われたくないでしょ・・・。
「何か嫌なことでもあったの?」
普段と変わらない様子の紅。
紅、お前って本当にザルですね。
「・・・別にぃ・・・・。」
くらくらする頭にが浮かぶ。
どうせ終わるんだ。
だったらこのまま自然消滅でもいい。
わざわざ傷付けてもらう必要はない。
「・・・女ってわっかんねぇ・・・・。」
一人、呟いて頭を抱えた。
「よっ!待たせて悪かったな!!」
アスマが店に入ってきた。
「おっそい!!」
「今日が終わっちゃうところだったじゃない。」
「わりぃな。」
アスマが俺の隣に座った。
「んじゃ、アスマも来た事だし・・・。」
アンコが新たにビールを注文した。
「かんぱぁぁぁぁい♪」
結局、アスマたちと飲んでお開きになったのは日付が変わって深夜2時だった。
「もう・・・いない・・・よね?」
やっぱり気になって待ち合わせ場所へと向かう。
は何時まででも待つと言った。
いつも自分の言葉に責任を持っていて。
有言実行・・・とは正にのためにあるような言葉だ。
だけど、さすがにこんな時間じゃ・・・・。
二人の待ち合わせ場所。
それは里の中心・・・・いや、二人の家のちょうど真ん中にある噴水広場。
屋根の上からそっと広場を見渡した。
街灯も消えていて、真っ暗。
「さすがに帰った・・・・か。」
こんな真っ暗じゃあ女じゃ怖くていれないでしょ。
誰もいない噴水広場。
真っ暗な待ち合わせ場所。
まるで・・・・・。
「帰りますか・・・・。」
暗い考えに支配されそうになって慌てて踵を返して家に向かおうとしたとき・・・。
・・・・・?
広場から気配がした。
振り返ってみれば・・・・。
「・・・・!!!」
誰もいない真っ暗な広場の端っこにが立っていた。
慌てての許へと走る。
「っ!!」
「あ、カカシさん。」
はほっとした表情をした。
「今何時だと思ってるの!!」
「何時まででも待ってますって言いましたから。今日中に言いたかったし。」
の微笑みと言葉が胸を突き刺す。
どうしても・・・・今日中に・・・・言いたいんだ?
終わらせたいんだ・・・ね。
「誕生日、おめでとうございます。」
そう言ってが微笑んだ。
「・・・え?」
の笑顔をぽかん・・・と見つめる。。
「今日・・って言っても2時間前ぐらいまでは誕生日でしたよね?
プレゼントは何がいいか考えたんですけど結局決まらなくて・・・。」
が申し訳なさそうな顔をした。
今日・・・・は・・・・9月・・・・15日・・・・?
「あ・・・・。」
「やっと気付きました?」
「忘れてた・・・・。」
「しっかり覚えててくださいよ。」
「・・・そのために・・・・は・・・・ずっと?」
「はい。どうしても15日に言いたくて・・・って、2時間過ぎちゃいましたけど。」
「・・・・ごめん。」
「任務だったのでしょう?なら、仕方ありませんから。」
の笑顔。
胸に・・・・痛いよ。
「ごめん・・・任務じゃないんだ。」
「・・・・・そうですか。」
それでも笑顔の。
かなりの酒を飲んだ俺は絶対酒臭いに決まってる。
も分かってるはずだ。
「迷惑になってない?」
「・・・え?」
俺の突然の言葉にが聞き返す。
「俺・・・・の迷惑になってるよね。」
「そんなこと・・・・。」
「正直に言って?
酔った勢いで付き合うことになっちゃって・・・・迷惑してない?」
「迷惑だなんて・・・・。」
「本当のことを言うね?
俺はが好きだよ。ちゃんと好きだよ。
この世の女はしかいないって思うほど好きだよ。
だけど・・・・いや・・・だから・・・。
フラれるのが怖くて、酔った勢いで告白した。
それならフラれても冗談にできるって思ったから。
今日だって、フラれるって思ったから・・・・・ここに来れなかった・・・。
だけど、ずっと待ってるを見てたら・・・ちゃんと言わなきゃって・・・。」
俺は今まで溜め込んでいた気持ちを暴露した。
その間、怖くての目を見れなかったけど・・・。
「・・・付き合ってからの5ヶ月間・・・・ずっと・・・・怖かった・・・・・。」
ぎゅっ・・・と目を閉じる。
この5ヶ月間、本当に怖かった。
いつ別れを切り出されるか、ビクビクしてた。
手を出して嫌われたら・・・って何も出来なかった。
自分が予想以上に臆病なことを思い知った5ヶ月間だった。
「なんで・・・・。」
の震えた声。
目を開けて視線を動かすと・・・が泣いていた。
「なんでそんなこと言うんですか・・・・・。」
「・・・・?」
「最初に付き合おうって言ってくれたのはカカシさんじゃないですか!」
「そうだけど・・・・。」
「私はあの瞬間嬉しくて死にそうだったのに・・・!!」
「・・・・・!!」
「それを言ったら私だってずっと怖かったんだから!!
この5ヶ月間、キスどころか一緒に出かけても手すら繋がない・・・繋いでくれない!!
誕生日すら教えてくれなかった!!」
泣き叫ぶ。
そんなを呆然と見つめている。
「どうやって・・・・誕生日・・・?」
「2週間前買い物してたら里のくの一の人たちが話しているのを聞いて初めて知ったんです!」
キッとに睨まれる。
「私は彼女じゃないんですか?恋人じゃないんですか?
あなたにとって私はなんなんですか・・・・?!」
こんなに泣き叫ぶは初めてみた。
も同じで。
この5ヶ月間。
ずっと不安だったんだ。
「・・・。」
そっとを抱き寄せた。
「・・・・・迷惑なら・・・迷惑と言ってください・・・・。」
俯いたまま呟くの肩は震えている。
「迷惑じゃない・・・・。迷惑じゃないよ・・・・。」
「・・・・・・・。」
「ごめん・・・・俺がもっと早くにもう1度気持ちを言っていればよかったんだね。」
「・・・・私も・・・・同じですから・・・・。」
「俺はが好きだよ。
に嫌われたくなくて・・・・手が出せなかった・・・・。
今まで不安にさせててごめん・・・・。」
「・・・・カカシさんが・・・・好きです・・・・・。」
の手が俺の背中に回った。
「・・・・・。」
「はい・・・?」
「もう、手加減はしないからね。」
「え・・・?」
の顎を掴んで強引に上を向かせて・・・・・。
キスをした。
この5ヶ月間の分のキス。
ビクッ・・・と反応はしたものの、は大人しくキスを受け入れてくれた。
「お酒臭いです・・・。」
「・・・ごめん。そういえばさ・・・・どうしてあのとき拒んだの?」
「・・・・あのまま受け入れたら・・・・。」
「・・・受けた入れたら?」
「気持ちが抑えられなくなりそうだったから・・・です。」
「遠慮しなくてもよかったのに。」
鼻の触れる距離で二人でクスクス笑った。
「誕生日、おめでとうございます。」
「・・・2時間以上も遅刻してごめんね?」
「大丈夫。ほら。」
「・・・・・ありがとう。」
「今年は一番最後になっちゃったけど・・・来年は一番最初に言わせてくださいね。」
「・・・じゃあ前の日の夜から一緒いないとね・・・?」
見せてくれたの腕時計は。
11時59分で止まっていた。
普通の日だった。
すっかり忘れてた。
だけど、お前のおかげで特別な日に変わった。
1年の中で、こんな幸せな日だったなんて初めて知ったよ。
今年だけじゃなく、来年も、再来年も、その次の日も・・・・。
ずっと、ずっと・・・。
お前と一緒にいられたら・・・いてくれたら。
生き抜くための力を持てるよ。
