「やっぱバレンタインってすごいね。」
「何が?」
「だって・・・・告白する力をくれるもの。」
陰謀?
「あ、あの・・・!!カカシさん!!」
突然、道のど真ん中で誰かに呼び止められた。
振り向けば、女の子が3人、モジモジしていた。
「ん?何?」
体を彼女達に向け、聞く体制をとる。
「あの・・・お聞きしたいことがあって・・・・。」
顔を赤らめて俯く彼女達。
またか・・・・。
心の中でため息をつきながら、彼女達の続きの言葉を待つ。
「あの・・・カカシさんは甘いものってお好きですか?」
意を決めた一人が顔をあげて聞いてきた。
「んー・・・はっきり言って好きじゃないなぁ。」
「そうですか・・・。」
「じゃあ、何か欲しいモノってありますか?」
今度は別の女の子。
「んー・・・欲しいモノ・・・ねぇ・・・。」
考える。
欲しいモノは、ある。
だけど、それは彼女達に言うべきことじゃない。
「ま、特にないかな?」
「そうですか・・・・。」
「ちゃんと答えてあげられなくてごめんね?じゃ、俺、行かなきゃいけないから。」
俺は彼女達に笑いかけ、歩き出した。
「あの・・・!来週って里にいますか?」
最後の女の子。
「んー・・・緊急が入らなきゃ・・・ね。」
背中越しに手を振って、その場を後にした。
来週。
2月のイベント。
バレンタイン。
俺にとって1年間で最も最悪な日。
待機所についた俺はいつもの席に座った。
「よぉ、色男。」
「やっ。おはよう、ヒゲ熊。」
仲間のアスマに手をあげる。
「見たぜ。」
「何を?」
「昨日の・・・。」
「あー・・・・アレ・・・ね。」
昨日のことを思い出す・・・・こともない。
昨日も今日と同じように女の子に呼び止められた。
んで、同じ質問。
ここ1週間、ずっと。
「モテる男は違うねぇ。」
「そういうアスマだって・・・でしょ?」
意味ありげな視線をアスマに向けた。
アスマも同様によく女の子に呼び止められる。
アスマだけじゃない。
だいたい特別上忍以上の男はよっぽどの不細工じゃない限り、聞かれる。
くの一だけじゃなく、一般の女の子にまで。
当然、今待機所にいるくの一たちもどこか賑やかだ。
「・・・・嫌だねぇ・・・。」
「何が?」
「こういうの。」
「こういうの?」
「だってさ、よく考えてみなさい?
別に告白しようと思うならいつだっていいじゃない。
それをなんで365日のうちのたった1日だけこんなになっちゃうの?
こんなお菓子メーカーの陰謀に乗せられたようなはしゃぎ具合。
正直、呆れるね。」
俺は騒いでるくの一たちに聞こえるように言った。
絶対、おかしいと思う。
告白したいほど好きなら、いつだっていいじゃないか。
したいときに、すればいい。
2月14日じゃないとダメなんて、誰が決めたの?
おかしすぎる。
「カカシには分からないわよ。」
振り返ると、と紅がいた。
「どういう意味?」
「告白したいときにすればいい。
確かに正論だよね。
だけど、したくてもできない女の子だっているのよ。」
が得意げに話しながら、俺の隣に座った。
ドキッ・・・・。
心が鳴り出す。
「お菓子メーカーの陰謀と知りつつも、
そういう背中を押してくれるようなイベントがないと告白できない人もいるってこと。」
「んー・・・そんなモンかねぇ。」
俺は曖昧に頷いた。
「あら?カカシなら分かってると思ったけど?」
「そーだよな、自分のことよく見てから言えよ、カカシ。」
紅とアスマがニヤニヤ笑っている。
こいつら・・・。
実際、去年のバレンタインで俺ももらえて嬉しくて自慢してたっけ・・・。
義理だったとしても・・・ね。
「え?何が?」
がきょとん・・・としている。
「は気にしなくていいの。」
「カカシのいじわるっ!!」
『俺の欲しいモノ=』なんだよね。
それを知っているのはアスマと紅だけ。
と、言っても俺の態度はあからさまらしく、上忍の間では有名らしい。
よく食事や映画、飲み会に誘う。
俺は二人で・・・と思っていたのに、気付けばがみんなを連れてくる。
だから、今だかつて二人きりで・・・ってのはない。
「バレンタイン、任務にならなきゃいいなぁ・・・。」
が小さく呟いた。
「え?、誰かにあげるの?」
急に胸の辺りがザワザワする。
「そりゃあげるよ。」
が呆れた顔をした。
「仲間にお世話になりましたって意味でね。」
「義理かよ。」
アスマが笑った。
「義理でもなんでも、ちゃんと気持ちは篭ってるんだから。」
「そうよ?は毎年ちゃんと自分で作るんだから。」
紅の言葉に去年を思い出す。
かわいくラッピングされたチョコレートクッキー。
甘いものが苦手の俺にはちょうどいい甘さだったのを覚えている。
そうか・・・手作りだったのか・・・・知らなかった・・・。
もっと味わって食べればよかった。
ちょうどいい甘さだったから、一気に全部食べたんだよね・・・。
「手作りだから日持ちしないでしょ?作りなおすわけにはいかないし・・・。
当日全部配っちゃいたいんだけどなぁ。」
が勤務表を見てブツブツ言っている。
「去年は火影様の配慮で任務を緊急以外受け付けないようにしてくれたけど・・・。
今年はなんか忙しいものね。」
紅も勤務表を見ている。
確かに14日はほぼ全員が休みになっている。
だけど、緊急の任務があれば問答無用で行かなくてはならない。
休みはあって無いようなもの。
「俺はお返しが怖ぇよ。」
「あら、あれはアスマが好きなモノを買ってやるって言ったからよ?」
紅が意外そうにアスマを見た。
「あー・・・紅、ヴィ○ンのバッグ、買ってもらってたねぇ。
今も使ってるよね。」」
が笑った。
「だって欲しかったんだもの。」
「あんなこと、言うんじゃなかったぜ・・・。」
「自業自得だね。」
俺が鼻で笑うと、アスマはブスッとした。
去年、紅からチョコをもらえて小躍りしてたのを覚えている。
「で、は特別な人にあげたり・・・するの?」
さりげなく聞いてみる。
をチラっと横目で見ると、がジィ・・・って俺を見ていた。
「・・・・何?」
「・・・・・別に?」
が視線を反らした。
「・・・んー・・・特別な人・・・ねぇ・・・。」
盛大なため息とともに呟く。
「どうだろ?わかんないや。
仲間に作らなきゃいけないし・・・ヒマないかも。」
「・・・・ふぅん?」
返事はしたものの、微妙に落胆。
俺の想いは通じてないのか・・・。
あれから何度か道端で女に子に呼び止められ、質問攻めにあった。
俺はちゃんと甘いものはダメだって言った。
それなのに。
それなのに!!
なんでチョコが届くんだよ!!
14日、やることがなく待機所に行って言葉を失った。
「・・・・何コレ・・・。」
挨拶よりも先に出た言葉。
「おぉ、チョコレートだ。」
アスマは苦笑している。
「今仕分けしてるからもうちょっと待ってろ。」
毎年恒例のチョコの仕分け。
男女関係なく、ここで待機する忍はここに届けられたチョコを仕分けする。
任務でいなかったりする忍宛てのチョコは毎年ここ待機所に届けられる。
まぁ任務のない忍宛てもある。
きっと直接渡す勇気がないから送ったんだろうけど・・・。
直接渡す勇気がないなら、チョコなんか送るな!!!
チョコだけ送られても、俺は女の顔なんか分かるわけがないっ!!!
写真付きで送られても困るけど。
「カカシ、あそこに積まれてるのがとりあえずお前の分。」
すっかり憔悴しきってる俺にアスマが声をかけてきた。
振り返れば、ダンボールに詰められたチョコの山、山、山っ!!!
うっわぁ・・・・。
「・・・・俺を太らせたいのか?」
「そう言いなさんなって。」
アスマがクックックッと笑った。
「・・・・あれ?」
「どうした?」
「・・・・は?」
の姿が見えない。
「さぁな。まだ来てない・・・・お、来たぞ。」
アスマが言いかけて、ドアを指した。
ちょうどが入ってくるところだった。
が、手には何も持っていない。
チョコは?
「よぉ、。」
「アスマ、おっはよぉ。すごいチョコの山だね。」
が笑顔でこっちに来た。
「毎年のことでもううんざり・・・なんだがな。」
「そっかぁ。じゃあ丁度よかったかな?」
「何が?」
「私、今年は義理チョコ、やめたの。」
「え?!」
俺の声、裏返った気がする。
「なんで?!」
「んー・・・内緒。」
が笑って、その場を去った。
「今年はあるみたいよ?」
紅が背後にいた。
「何が?」
「決まってるでしょ?本命チョコよ。」
「本命っ!!」
慌てて紅の肩をつかむ。
「にそんな人、いたのっ!?どこの誰っ!?」
「それは本人に聞きなさいよ。私の口からは言えないわ。」
「そりゃそーだ。」
紅の言葉にアスマが深々と頷いた。
「それが聞けたら苦労しないでしょ・・・・。」
紅から手を離し、ストン・・・とソファに座った。
知らなかった・・・。
に好きな人がいたなんて・・・。
てっきり恋愛関係に疎いだけかと想っていたのに・・・。
「、いつも以上に頑張って作ってたわよ。」
「そりゃ上手そうだな。」
「でしょ?あ、はい、これ。」
紅が何かを差し出した。
酒だった。
しかも、ラッピングされた酒。
「二人とも、甘いの苦手でしょ?だからこっちの方がいいと思ってね。」
「気が利くじゃねぇか。」
アスマ、口がにやけてるよ。
「お返し、期待してるから。」
にや・・・っと笑って紅も姿を消した。
に好意を持っているのは、俺だけじゃなかった。
からの手作り(義理)チョコがないと知って嘆く忍が大勢いた。
当然、俺もそのうちの一人・・・・なんだけどね。
仕分けが終わりそうもなく、俺は家に帰ることにした。
あのままあそこにいても、からのチョコはもらえないだけだし、
どんどん大きくなっていくチョコの山を見たくなかった。
ひとまず既に分けられているチョコを担いで。
捨てても良かった。
だけど、今年はなぜか持って帰る気になった。
たかがチョコ、されどチョコ。
1つ、1つに送り主の気持ちが篭ってると想うと、捨てられなかった。
その気持ちに応えることは出来なくても、食べてあげることはできる。
それが俺なりのお返し・・・と想ったから。
「すごい量だね。」
帰り道、偶然に会った。
「去年までは捨ててたのに、どういう心境の変化?」
はチョコの量に驚いている。
「ま、食べてあげることが最低限のお礼かなってね。」
持っていたダンボールを下に置き、苦笑した。
「全部食べるんだ?」
「明日、待機所に行けないかも。」
「頑張れ、青年。」
が笑った。
「じゃ、私、行くとこあるから。」
「ん、気をつけてね。」
歩き出したに俺は手を振った。
不意に、手に持っている紙袋に気付いた。
本命チョコ・・・。
「ねぇ、。」
「ん?なぁに?」
つい、呼び止めていた。
「交換、しない?」
「はい?」
「コレと、ソレ。」
足元に置いてあるダンボールに入ったチョコとの持っているチョコを指す。
「だってそれは・・・。」
「交換したい。」
「全部食べるんでしょ?カカシ、甘いの苦手だし・・・・。」
「これ全部より、俺はのソレが欲しい。」
気持ちが焦っているのが分かる。
今、を行かせてしまったら。
今、の持ってるチョコを見過ごしたら。
明日には・・・。
「チョコくれた女の子たちに悪いよ。」
「分かってる。だけど、俺はソレが欲しい。」
言うなら、今しかない。
「どんなに高価で上手いチョコ1000個くれたとしても、
俺はからチョコが欲しいの。」
「バレンタインのこと、バカにしてなかったっけ?」
「お菓子メーカーの陰謀だとしても、
が俺以外の男にチョコあげるなんて嫌だ。」
「それって・・・。」
「のこと、好きだよ。」
別に今日、このタイミングで言わなくてもよかったのに。
もっとかっこよく言うつもりだったのに。
なんてかっこ悪い告白してるんだ、俺は。
は驚いたまま、何も言わない。
俺も、からの返事を待って、黙った。
「交換なんて、イヤ。」
がポツリ・・・と呟いた。
・・・・・・・ダメだったか・・・。
拳に力が入った。
「交換じゃなくて、ちゃんと受け取ってよ。」
「・・・・・え?」
を見れば、が頬を紅くして袋を俺に差し出していた。
「交換でしか受け取ってもらえないなら・・・いい。」
「・・・・交換しなくてもらえるなら嬉しいんだけど・・・。」
紅から、のチョコは本命チョコだと聞いている。
だから、今持っているチョコはきっとの好きな人のために作られたチョコ。
「だって・・・カカシのために作ったんだもん・・・。
交換なんて・・・・イヤ。」
の持っているチョコは俺のために作られた・・・・チョコ。
無言での差し出しているソレを受け取った。
「・・・・・本当?」
「・・・・本当。」
「・・・・食べていいの?」
「・・・・食べていいの。」
「・・・・全部?」
「・・・・・残したら・・・怒る。」
が照れたように顔を反らした。
「・・・・カカシ・・・。」
「・・・ん?」
「・・・・・ずっと・・・・好き・・・でした・・・。」
消え入りそうな声。
思わずを抱きしめた。
「俺も・・・・・・・が・・・好き。」
「・・・・・ずっと・・・いつ言おうか・・・迷ってた・・・。」
が体の間で腕を伸ばして距離を作った。
「ずっと前から・・・・カカシのこと・・・見てて・・・。
だけど、カカシに好きな人がいるって噂聞いて・・・。
誰だか探ろうとしたけど・・・・分からなくて・・・。」
「・・・・・俺、に気付いてもらおうと頑張ってたんだけどなぁ・・・。」
それはそれは、周りが気付いちゃうぐらいに。
「え?だって、カカシ、そんな素振り見せて無かったよ?」
「・・・・本気で気付いてなかったのね。」
ここまで鈍いとは想わなかったよ・・・。
の作った距離を体を引き寄せてなくす。
「俺は・・・ずっと前からに気付いて欲しくて、頑張ってたのになぁ・・・。」
「・・・・ごめん・・・・。」
が上目遣いに俺を見上げた。
それが可愛くて、愛しくて・・・。
キス、した。
「やっぱバレンタインってすごいね。」
「何が?」
「だって・・・・告白する力をくれるもの。」
「・・・・・。」
「本当は、ずっと言いたかった。
だけど、もし振られたら・・・って想うと出来なかった。
仲間として、一緒にいるのが気まずくなるの、イヤだったし。
だけど、バレンタインに告白するのは私だけじゃない。
みんなが頑張ってる。
もし振られても、泣くのは私だけじゃない。
なら、私も・・・・って。
だから、頑張れた。」
「・・・・俺も・・・。」
「・・・・ん?」
「が俺以外のヤツにチョコあげるの、イヤだった。
今年だけじゃなくて、去年も、一昨年も・・・。
俺だけにくれればいいなって・・・・想ってた。」
「なんだかんだ言いながらも、すっかり乗せられてたのね。」
「・・・・陰謀にハマってました。」
「でも・・・・それでいいんじゃないかな・・・。」
「・・・・そうだね・・・。」
「来年も、俺だけにちょうだいね?」
「来年は、私のだけ、受け取ってね?」
「・・・・これ、どーすっかな・・・・。」
「・・・・折角もらったんだし・・・・。」
「・・・・食べるの?」
「私が手伝ってあげる。」
「それは頼もしいね。」
☆☆☆おまけ☆☆☆
2月15日。
「・・・・どうしたの?」
待機所に入ってきた紅がテーブルにうつ伏してるを見て聞いてきた。
「・・・・・気持ち悪い・・・・。」
「どこか具合悪いの?」
「違うって。」
心配そうな紅に俺が応える。
「昨日、俺がもらったチョコ、が全部食べたの。」
「・・・・・が?」
不思議そうな紅。
「結局、交換しちゃったことになるね。」
「だって・・・・全部おいしそうだったんだもん・・・。」
が泣きそうな顔をして体を起こした。
「・・・・それって・・・・。」
紅にピースを見せた。
「・・・・・カカシが手伝ってくれないから・・・。」
「俺はあのチョコ1つでお腹いっぱいになりましたから。」
「・・・・・裏切り者。」
「だから一気に開封するなって言ったのに・・・。」
「だって、何が入ってるか気になったんだもん。」
「開封しちゃったらいくらチョコでも日持ちしないでしょ。」
「・・・・・だって・・・・。」
「ついでにまだ1/3残ってるからねぇ。」
「・・・・・カカシの意地悪・・・・。」
今度はソファに横になりだした。
そうとう気持ち悪そうだ。
「・・・・今日任務回ってきても無理そうね。」
「だってすごい量だったからねぇ。」
「なんで捨てなかったの?毎年捨ててたじゃない。」
「がこれの1つ1つに気持ちが篭ってるんだから捨てるのは絶対ダメ!!って・・・。」
「・・・・でも、カカシが食べなきゃ意味ないわよね。」
「・・・・そうなんだけど・・・ね。」
からもらったチョコケーキで十分だった。
ちゃんと甘さ控えめになっていて・・・。
俺のために作ってくれたチョコ。
俺だけが食べていい。
もう、これだけで十分。
お腹も気持ちもいっぱいです。
「・・・・気持ち悪いよぉ・・・・。」
「やっくり休んでなさい。」
「・・・・・うぅ・・・。」
バレンタインに欲しいモノがもらえた。
ちょっとはバレンタイン、好きになれそうかな?