来てくれた。
私のために、走って。
それだけで、私はまた、頑張れる。
来年
12月になった。
カレンダーの11月のページをおもっきり勢いよく破る。
と、同時に持っていたカラーペンでキュキュッと印をつける。
「よしっ!!」
カレンダーを見てすぐに分かるようにする。
これでアイツも気付くはず。
満足した私はペンをしまい、これから来る恋人のためにヤカンを火にかけた。
数分してアイツが来た。
「寒くなってきたねぇ。」
と、言いつつも全然寒かったそうには感じない顔をするカカシ。
「本当に寒いと思ってんの?」
「そりゃ、まぁ。」
「全然そうは見えない。」
沸きたてのお湯でコーヒーを入れてカカシの前に置いてあげる。
「任務で色んなところ行ってるからね。」
「そりゃそーだけど・・・。」
「慣れよ、慣れ。」
そんなもんなのかなぁ・・・。
私は寒いのが苦手。
かと言って、暑いのも苦手だけど・・・。
「ところで。無理だから。」
「は?」
突然のカカシの言葉にきょとんとする。
カカシはそんな私に何かを指した。
指した先には・・・・カレンダー。
さっき私がでっかく印をつけた、12月のカレンダー。
「22日から1週間の任務。」
・・・・。
22日から1週間・・・。
と、言うと・・・。
「えぇぇぇぇぇっ!!またぁぁぁっ!!!」
カカシの言いたいことに気付いて、絶叫する。
私が印を付けた場所は25日だった。
そう、クリスマス。
「クリスマスだよ?年に1回しかないんだよ?」
「春分も秋分も敬老も勤労感謝も年に1回だね。」
「そういうことじゃなくて!!」
私とカカシ。
付き合って3年になる。
だけど・・・。
1回もイベントを一緒に過ごしたことがなかった。
「任務が入っちゃってね。」
カカシは忍をしてる。
私は普通のOLをしている。
休みが合うことは難しかった。
「・・・・・そっか。」
「・・・・ごめんね。」
「・・・・仕方ないし。」
「・・・本当にごめん。」
任務・・・となれば仕方ない。
文句は言えない。
「来年は開けとくから。」
カカシは申し訳なさそうに笑った。
クリスマスが近づくにつれ、だんだんと街は姿を変える。
赤と緑で彩られ、何処も彼処もお祭り騒ぎ。
クリスマス、当日。
街を歩けば必ずと言っていいほど、ぶつかる相手はカップル。
会社帰りの私もさっきからトータル3回ぶつかった。
「・・・・寒い・・・。」
つい、口から出た言葉。
北風が吹いているから・・・。
ううん・・・違う。
心が・・・寒い。
正直、限界だった。
お正月も、バレンタインも、夏のお祭りも、誕生日も、クリスマスも。
3年付き合ってるのに、1回も一緒に過ごしたことがない。
数日たってから、
「今からやる?」
と、言われるけど今更な気がして・・・。
カカシの負担になりたくない。
ずっと、そう思って頑張ってきた。
私のワガママでカカシを困らせたくなかった。
カカシはこの里の長・火影様の指示で動いている。
それを私のせいで覆す・・・とは到底無理な話。
だけど。
仕事をしている私の隣で、
「今日彼氏と会うんだぁ。」
とか、
「誕生日に買ってもらっちゃった!」
なぁんて言ってる女の子たちが羨ましかった。
惚気たいわけじゃない。
自慢したいわけじゃない。
私はただその1日を一緒に過ごして実感したいだけ。
私はカカシが好きで、カカシも私を好きなんだ、と。
だから私たちは付き合っている。
だから、私たちは今、一緒にいるんだ。って・・・。
ふいに目の前に大きなモミの木が現れた。
お見事!と、叫びたくなるぐらいに飾り付けられて。
つい、見入ってしまった。
そして、気付いてしまった。
モミの木を見上げる人たちは、家族とカップルばかり。
私は・・・。
ねぇ・・・カカシ。
私、カカシとならなんでも乗り切れると思ってた。
それほど私はカカシが好き。
カカシの負担にならないように出来る自信もあった。
だけど、さ。
私は普通の女なんだよね。
やっぱ・・・こういうとき、独りってのは・・・辛いよ。
自信が・・・なくなってくる。
カカシを好きでいる自信が。
「来年は開けとくね。」
その言葉・・・去年も言ってたよ?
確か、その前の年も言ってたっけ。
来年こそ・・・と思って。
その言葉を信じてずっと我慢してきた。
カカシの来年って、いつなの?
空から何かが降って来た。
「雪だっ!」
隣にいた小さな男の子がうれしそうに叫んだ。
空からは真っ白な雪が静かに降ってくる。
ホワイト・クリスマス・・・か。
カカシと・・・・見たかったなぁ・・・。
目を閉じる。
もう・・・やめよう。
もう、頑張れない。
私は・・・限界。
あれから1年。
クリスマス。
街は赤と緑のイルミネーションに彩られ、
幻想的な雰囲気になる。
家族連れやカップルで賑わう街を私は歩いていた。
あの、モミの木目指して。
この1年、私とカカシは会うことはなかった。
だって、あの日。
私は家に帰って手紙を書いたから。
投函するとき、手が震えた。
本当にいいの?
何度も自分に問いかけた。
何度も迷った。
だけど。
行き着く答えは決まっていた。
モミの木の前に立つ。
去年同様、お見事な飾りつけ。
今夜が、最後。
唇を少し噛み、待ち合わせの人ごみに紛れた。
『来年のクリスマス。
モミの木の前で待ってる。』
手紙の内容。
それが次に会う約束。
カカシもその意味を理解してか、会いに来ることはなかった。
ほっとしたし、残念にも思った。
たった2行の手紙でその意味を理解してしまうほど、私を知ってる。
ほっとした。
手紙片手に急いで会いにきてくる・・・ことはなかった。
だから、残念。
これは賭け。
これでカカシが来なかったら。
終わりにしよう。
カカシの「来年」まで待てないよ。
19時。
20時。
雪が降り始めた。
21時。
人ごみが減ってくる。
22時。
世界が白く染まっていく。
23時。
時間だけが・・・過ぎていく。
時計は日付の変わる5分前だった。
もうモミの木の前には、私だけだった。
独り。
涙が零れた。
来ない。
来なかった。
終わったんだ。
来るはずが・・・ないんだよ。
きっとあの手紙を見て、怒っちゃったんだ。
そして、嫌われた。
自分勝手なヤツ。ってね。
この1年は私が勝手に粘ってただけで。
カカシはもう・・・。
溢れる涙を拭くことができない。
体が動かない。
動けない。
寒くて、淋しくて、寒すぎる。
ごめんね、カカシ。
最後の最後に迷惑かけて。
ありがとう。
「泣くにはまだ1分早いでしょ。」
顔を上げると。
肩で息をしているカカシがいた。
「・・なん・・・・。」
「約束、でしょ?」
手には去年の手紙が。
「待たせてごめん。」
カカシの腕に引かれ、腕の中に抱かれる。
「ずっとずっと・・・待たせてて・・・ごめん。」
雪が降るぐらい寒いのに。
カカシの額から汗が流れている。
「がずっと我慢してること知ってた。
知ってて・・・甘えていた。
だけど、去年手紙を見て・・・・。
なんて愚かだったんだろう・・・って。
ずっと我慢し続けられる人間なんていないのに。
そこで初めて・・・焦った。」
カカシの腕に力が篭った。
「・・・お願いだから・・・もう、こんな賭け・・・しないで・・・。」
知ってたんだ。
カカシは私が今夜に賭けてることを。
「と会えなかった1年。
ずっとずっと・・・焦ってた。
今年が・・・・最後のチャンスだって・・・。」
「カカシ・・・。」
「・・・これ。」
カカシが何かを差し出した。
それは紙袋で。
中には沢山のラッピングされた包みがある。
「用意はしてあったんだけど・・・。」
その数、合計7個。
「今までの・・・分・・・。」
4年分の誕生日とクリスマスのプレゼント。
「今年は・・・・任務終わらせて急いで来たから・・・。」
ごめん・・・と小さく呟いたカカシを見て。
私は微笑んでしまった。
「急いで・・・来てくれたの?」
「当然でしょ。」
「じゃあ・・・。」
プレゼントの中の1つからリボンを解く。
そのままカカシの髪に結ぶ。
「コレがいいな。」
私の言いたいことが分かったカカシは。
「コレはもう、全部のモノでしょ。」
誰もいないモミの木の前でキスしてくれた。
来てくれた。
私のために、走って。
それだけで、私はまた、頑張れる。
だけど。
もしまた限界がきたら。
・・・・また手紙出しちゃうかもね。
イツマデモ、アナタト、一緒ニ・・・。
Merry X’mas
