私の部屋の本棚の奥に封印してあるモノ。




もう二度とすることのないモノ。




それは・・・。








捨てられないモノ






、何してるの?」


カカシが窓枠に姿を現した。


「んもぉ、いつも玄関から来てって言ってるでしょ。」


「んー、もうクセなんだよね。こっちに来ることが。」


そんな彼を見て微笑む私。


「で、何してるの?」


「そろそろカカシが来るころだと思ってお昼ご飯の用意してたの。食べるでしょ?」


私は得意げにフライパンの中を見せた。


「うん、そろそろが昼ご飯作ってくれてると思ったから何も食べずにきた。」


「入りなよ。」


クスッと笑い、私は料理の続きをする。


「お邪魔します。」


カカシは靴を脱いで玄関に置きに行く。










カカシと会ったのは先月のこと。


本屋で私の欲しい本が高い位置にあり、なかなか取れないでいた私にそれを取ってくれたのがカカシだった。


それからはその本屋で会うたびに会話をし、休日にはこうして私の家に来るようにまでなった。










カカシの名前は会う前から知っている。


いろんな噂とともに・・・。


一般人の私から見てカカシがどれほどすごい忍びなのか計り知れない。


だけど、噂で聞く限りでは『里1番の忍び』。


任務依頼数もかなりのものみたい。


でも・・・。






「今日の夕飯も食べにきていい?」


「いいよ。何がいい?」


の作るものならなんでも。」


「じゃ、天麩羅にしよう。」


「ごめんなさい。それ以外でお願いします。」








こんな会話からは全く分からない。


一般人の私に合わせてくれているのか。


それとも、これが彼の素なのか。


どっちでもいいや。


彼と時間を共有できるのなら・・・。






伝えたい、この気持ち。


だけど、噂がそれを邪魔する。


さっき言ったのは『忍び』としてのカカシの噂であって。


『はたけ カカシ』としての噂も数知れず。


女の噂が絶えることは・・・ない。








そんな彼に気持ちを伝えたところで・・・・。


傷つくのは自分だと分かっている。


私はもう傷つきたくない。






私は恋に臆病になっている。


ううん・・・・違う。


恋に臆病になっているわけじゃない。


『忍び』に恋することに臆病になっているんだ。










「今日は天気がいいね。」


ソファでくつろいでいる彼に話しかける。


「そうだね。こういうときは外にでかけるのが一番だよ。」


「じゃ、ご飯食べ終わったらでかけようか。」


「いいよ。どこに行きたい?」


「カカシが連れて行ってくれるならどこでも。」


「じゃ、考えておくよ。」


できた料理を皿にうつし、運ぶ。


カカシもそれを手伝ってくれる。








心地よい時間。


心地よい空間。






私の楽しみ。






















ご飯を食べ終わった私たちは気のむくままに里を歩く。


一定の距離を確保しながら。


「あ・・・・。」


ある店の前で私の足は止まった。


「どうしたの?」


「ん?これ・・・・かわいいなって。」


「どれ?」


ウィンドウの中に飾られたピアスを指した。


それは小さな紅い宝石に羽がついている。


「でも、ってピアス空けてたっけ?」


「前は空けてたんだけど、塞いじゃったんだ。」


「なんで?」


「ピアスの穴を開けると運命が変わるって言うから・・・。」


「へぇ・・・女の子ってそういうの好きだよね。」


「別に信じてるわけじゃないけど・・・・。」


「塞いだことによって運命を元に戻したかったの?」


「・・・そうかな。」


私は微笑む。










一瞬よぎるある忍びの顔。








「さぁ!次にいくぞぉ!」


「はいはい。」


私は元気に歩き始めた。


「あ、ついでに夕飯の材料も買っちゃおうか。」


「いいよ。」


「荷物持ちがいるしね。」


「・・・・適量でお願いね。」


「はいはい。」








カカシは私の過去に踏み入らない。


興味がないだけ・・・・と言われればそれまでだけど。


私にはそれが丁度よかった。












「買いすぎたかな・・・。」


「買いすぎでしょ。」


「全部食べれるかな。」


「食べれる・・・・でしょ。」


カカシの手には大きな袋が3つ。


中から葱と大根が顔を出している。


「カカシ上忍ともあろう者が葱と大根・・・。」


そのミスマッチに姿に私は笑う。


「だったらが持ってよ!」


「いいよ。持ってあげる。さっきからずっと持ってたもんね。」


私はカカシに手を差し出し、袋を渡されるのを待つ。


「・・・・・。」


カカシは何かを考え、片手に全部の袋を持って・・・。


「・・・・こっちを持って。」


そう言って、私の手を握った。


「・・・・・・。」


突然のことに、私の顔は赤くなる。


「そんなに照れないで・・・・こっちまで恥ずかしくなるから。」


「だって・・・・。」


カカシの横顔を見上げると・・・。


「カカシ、耳が赤いよ。」


「・・・・うるさいよ。」


自然と顔がほころぶ。


















「あれ?カカシさんじゃないっすか。」


突然カカシは呼ばれた。


「やっ。」


カカシは荷物を持った方の手を相手にあげる。


私はカカシの後ろを歩いていて相手が見えない。






だけど・・・・この声は・・・・。






「カカシさんが葱と大根持ってる・・・。」


「うるさいよ。」


相手はカカシの持っている荷物を見て唖然としている。


「これからこの子がご馳走を作ってくれるのよ。ね??」


カカシは上機嫌でつないだ手を引っ張り、相手の前に私を出させた。


「・・・・・・・・?」


「・・・・・ゲンマ・・・・。」


私は咄嗟にカカシの手の中から自分の手を引き抜いた。


「・・・・久しぶり。」


「・・・・・・うん。」


「・・・・知り合い・・・なの?」


私とゲンマの微妙な空気を読み取り、カカシが尋ねる。


「・・・・知り合い・・・・っす。幼馴染っつーか・・・・。」


「そうなんだ?」


「はい。カカシさん、に料理作ってもらえるんだ。


 羨ましいっす。は料理うまいし・・・。」


ゲンマがちらっと私を見たのが分かる。


私は・・・・俯く。


「カカシ・・・・・行こう。」


「あ、うん・・・。じゃ、ゲンマ、明日ね。」


「お疲れさまっす。」


立ち止まったままの私の隣をゲンマが通りすぎる。


「・・・・あれ?」


私の隣でゲンマが立ち止まる。


「・・・・お前、ピアスは?」


「・・・・・え?」


「前はしてただろ。やめたのか?」


「・・・・うん。」


「・・・・そっか。じゃあな。」


俯いたままの私に何かを感じたのか、ゲンマはそのまま去って行った。








じゃあな。








胸が騒ぎ出す。


泣きそうになる。










じゃあな。








それが・・・・最後の言葉だったから。










?」


名前を呼ばれて我に返る。


「・・・・どうしたの?」


「・・・ううん。なんでもない。」


カカシの心配そうな顔に頑張って微笑む。


ちゃんと笑えてるか分からないけど・・・。


「そぉ?」


「うん、ごめん。」


「なんで謝るの。それより、俺、もう腹ペコペコなんです。」


「そうだね。早く帰ってご飯作ろう?カカシも手伝ってね。」


「了解。」


再び歩き出す。








でも、もう手はつながなかった。








一緒に夕飯を作り、一緒に食べ、ちょっとくつろいだ後、カカシは帰った。


明日から任務らしい。


一人になった私はぼんやりしている。






突然の再会。


思いもよらぬ形で。


カカシと一緒にいるときに。






カカシはどう思ったのかな。


咄嗟に手を離した私を。


分かっちゃったカナ。










私とゲンマの関係に。






























私はいつものように仕事をして、帰宅する。


あの翌日から任務に出ているカカシ。


暗くなりつつある空を見上げる。


無事に帰ってきますように・・・。


私は月に両手を合わせてお祈りをする。




「そのクセ、まだ健在・・・・だったか。」


振り返ると・・・・そこにはゲンマがいた。


「ゲンマ・・・・。」


体に緊張が走る。


「・・・・そんなに緊張すんなよ。・・・っても、俺も緊張してっけど・・・。」


ゲンマが微笑む。


「帰るんだろ?送ってく。」


「・・・・いい。一人で大丈夫。まだ明るいし・・・。」


「バーカ。こういう薄暗い時間が一番危険なんだっつーの・・・。」


強引に私の手からバッグを取り、歩き出すゲンマ。


仕方なく私はゲンマの後ろをついていく。


一定の距離を確保して。


「・・・・そんなに離れてたら意味ねーだろ。」


振り返ったゲンマはため息をつく。


私はゲンマの5メートル後ろにいる。


「・・・・お前・・・カカシさんと付き合ってるのか?」


「・・・・ゲンマには関係ないよ。」


「あの人はやめとけ。女泣かせで有名だから。」


「・・・・・・・ゲンマには関係ないよ。」


「俺はお前の為を思って・・・。」


「ゲンマには関係ないよ!」


自分でもびっくりするぐらい大きな声。


「・・・・・関係・・・・ある・・・。」


「・・・・・え?」


ゲンマの声が小さくて聞き取れなかった。


だけど・・・・ゲンマが真剣な目をしているから・・・。


私は動けなかった。


「・・・・・お前には・・・・悪いことをしたと思ってる。」


ゲンマが私のそばへゆっくりと歩き出す。


「まさか・・・・本当に待っててくれてたとは思わなかったんだ。」


1歩。


「忍びである以上、いつ死ぬか分からない。そんな奴を本当に待ってるなんて・・・。」


1歩。


「でも・・・・・・本当はうれしかった・・・・。」


1歩。


「しばらくして・・・お前が引っ越したつて知ったときは・・・・マジ凹んだぜ。」


1歩。


「だから・・・・こうしてまた会えたら・・・・絶対言おうと思った。」


私の前で立ち止まる。


「・・・・やり直さないか?」


「・・・・・・!」


「あのときから・・・俺の気持ちは変わっていない。」


ゲンマが手をのばし、そっと私の頬に触れた。


「もう絶対泣かせない。何があっても、どんなに遠くに離れていても・・・お前の所に戻ってくる。」


ゲンマの目。


真剣な目。








私の好きだった・・・・・目。








呆然としている私の唇に何かが触れる。


気付けば・・・・ゲンマにキス・・・・されていた。


抵抗することも・・・・目を閉じることも・・・・。


忘れてしまっていた。










苦しい。










胸が苦しい。








押しつぶされそう。








涙が・・・・頬を・・・・伝う。


























「・・・・?」


ゲンマの背後から声がした。


咄嗟にゲンマを突き飛ばし、声の主を見る。


「・・・・カカシ!」


カカシだった。


私はゲンマのそばを離れ、カカシに駆け寄った。


「・・・・・さっき任務が終わって・・・・今戻ってきた。」


カカシが微笑む。


だけど・・・その目は・・・とても悲しげで・・・。


傷ついた目。


「・・・、さっき言ったこと・・・本気だからな。」


風の音がして振り返ると、そこにゲンマはいなかった。


「・・・・・・帰ろう?」


「・・・・・うん。」


カカシに促されて私は歩き始めた。






































帰ってくる間、お互いに無言で・・・・。


そのまま部屋に上がらずに帰ろうとするカカシを引き止めて・・・。


私はカカシと向き合った。


「コーヒー・・・・。」


「ありがと。」


微笑みながら受け取るカカシに胸を痛める。


「・・・・・まさか・・・・とゲンマが付き合ってたなんて・・・・ね。」


カカシの言葉に胸が鳴る。


「・・・・カカシ・・・・聞いて欲しいの・・・・。」


「話も何も・・・・はゲンマのキスを受け入れてたんだから・・・・。」


「・・・・お願い・・・・話を・・・・・。」


「過去のことは簡単に話していいもんじゃないよ。」


「カカシ・・・。」


「俺ものこと・・・・好きだったんだけどね・・・。」


「カカシ・・・。」


も俺のこと・・・・って少しは期待してたんだけど・・・ね。」


「・・・・・。」


私に何も言わせないようにカカシが話し続ける。


何も話させてもらえないのが・・・・こあまりにも辛くて・・・。


私の目から涙がこぼれる。


「・・・・・ごめん。」


カカシの小さな声。


には・・・・悪いけど・・・。


 今の俺、話を聞いてあげられるほど余裕ないみたい・・・・。」


カカシの言葉が痛い。


「だから・・・・余裕ができたら・・・・話を聞きに来るよ。」


「・・・・お願い・・・・話を・・・・。」


「無理って言ったでしょ?


 今の俺は頭に血がのぼっちゃってて、このままと一緒にいたら・・・・。


 に何をするか分からないよ。


 俺は・・・・を傷つけたくないから・・・・。」


カカシの立ち上がる気配。


はっと顔を上げると・・・・。


そこにカカシはもういなかった。


















あれから1ヶ月。


私はカカシがいつ来てもいいようになるべく部屋にいるようにした。


だけど、彼が窓枠に現れることはなかった。


風で揺れる窓の音に反応した。










その間にゲンマが1度、私を訪ねに来た。


だけど、私はゲンマを部屋にあげなかった。


だってまたカカシに見られたら・・・。


「やっぱ・・・・ダメか?」


「うん・・・ごめん。ゲンマ・・・。」


「いや、元は俺があのとき・・・。」


「過去を振り返ってもしょうがないよ。」


「・・・・・そうだな・・・・・・。」


そう言って、ゲンマは私の部屋を去って行った。


今度は「じゃあな。」とは言わなかった。


代わりに「幸せにな。」と言い残して。












ねぇ、ゲンマ。






私、あなたのこと、ちゃんと好きだった。






あなたの強引だけど優しい性格に惹かれた。






だからあのとき、ずっと待っていられた。






だけど、それはもう過去のこと。






今の私に必要なのは・・・カカシ。






ねぇ、カカシ。






なんで・・・・話を聞いてくれなかったの?






私、今でもあなたのこと、待ってるんだよ?






どうして来てくれないの?






今の私には・・・・この1ヶ月が辛い。






あのとき、何をされてでもカカシを引き止めるべきだった。






もう会えないの?




































仕事が終わると、私はすぐに家に帰るようにしている。


もしかしたらカカシが来ているかもしれない・・・。


だけど、今日はめずらしく残業してしまった。


時間は11時。


小走りで家に戻る。


と、後ろをついて来る足音に気付き、足を止める。


その足音も止まる。


今度はゆっくり歩く。


足音もゆっくり動き出す。








どうしよう・・・。






全身に鳥肌がたつ。


どこかの店に飛び込む?


だめ、こんな時間じゃどこも閉まってる。


走って・・・・逃げるしかない・・・。


家までまだ距離はあるけど・・・。


走れない距離じゃない。


逃げ切れることを・・・・月に願う。


「・・・・!」


突然走り出した私に驚いた足音も走り出す。










助けて・・・・。










助けて・・・。








近所の公園にさしかかったとき・・・。


足音がすぐ後ろに聞こえる。










カカシ・・・・!








ぎゅっ・・・と目を閉じたと同時に肩を掴まれ、抱き寄せられる。


「・・・・・・!」


悲鳴は悲鳴にならない。


!」


・・・・・・・・・。


そっと目を開けてみると・・・。


私の肩を抱き寄せているのは・・・・。


「・・・・カカシ・・・・。」


「大丈夫か?!」


目の前にカカシがいる。


「どうして・・・・。」


「今任務が終わってね。ゲンマと話をしていたらが必死に走ってるのを見かけて・・・。


 様子が変だったからゲンマと後を追ってたら・・・が男に追われていたから・・・。」


「・・・・・ふっ・・・。」


ようやく安心したのか・・・。


私の体が突然震え始め、涙が溢れる。


「大丈夫。男はゲンマが追ってる。俺もいるから・・・。」


私を宥めようとカカシが私を抱き寄せ、背中を擦ってくれた。


私はカカシにしがみついて・・・・泣いた。












カカシが部屋まで送ってくれた。


だけど、上がろうとしない。


「・・・・今日はこれで帰るよ。」


「なんで?」


「なんでって・・・はさっき怖い思いをしたわけだし・・・。」


「カカシなら大丈夫。怖くない。」


「・・・・でも・・・。」


「お願い・・・・一人に・・・・しないで・・・。」


カカシの手をにぎる。


「・・・・まだ・・・・余裕ないんだ・・・。」


「・・・・・・。」


「また・・・・来るから・・・・。」


カカシは私の手をそっと外し、背を向ける。


「待って!」


咄嗟に私はカカシの背中に抱きついた。


?!」


「お願い、話を聞いて!」


「・・・。」


「私、カカシになら何をされてもいいから!」


「・・・・。」


「カカシが来ないこの1ヶ月・・・・辛かった・・・・。


 やっと・・・・会えたのに・・・・・・。


 行かないで・・・。」


カカシを抱きとめている腕に力を入れる。


と、同時に・・・。


一瞬のことで分からなかった。


気付いたときには・・・・私はカカシに玄関で壁に押さえつけられていて・・・。


キスをされていた。


カカシが離れ、見詰め合う。


「・・・・・今、部屋に入ったらこれじゃすまなくなる・・・・。」


「・・・・うん・・・・・。」


「ゲンマはどうした?」


「ちゃんと・・・・言ったよ?」


「・・・・・・。」


「私は・・・・カカシが好きだって・・・・。」


微笑んでみせる。


また唇を重ねる。


今度はちゃんと私も目を閉じて。


カカシの首に腕を回す。


「・・・・もう・・・・止まらないからね?」


そう言って、カカシは私を抱き上げた。






















初めてカカシの顔を見た。


額当てをしていない顔。


口布はご飯を食べるときに外していたからいいんだけど・・・。


「カカシ・・・。」


そっと顔の傷に触れる。


「・・・・昔に・・・ね。」


カカシの自嘲的な微笑み。


きっと・・・この傷がカカシの過去を暗くしている。


きっとカカシは自分の過去に踏み込まれたくない。


だから・・・・私の過去にも踏み込んでこなかった。


「・・・・・っ!」


カカシの指が私に触れるたびに、私は反応する。


・・・・。」


見上げればカカシの顔。


「・・・ごめん・・・・俺・・・・止まんない・・・。」


「・・・うん・・・・。」


「辛くしちゃうかもしれないけど・・・・。」


「大丈夫・・・・。」


そっとキスをする。




















「・・・・5年くらい前に・・・・ゲンマと付き合い始めたの・・・・。」


ベッドのフチに座っている私は目を閉じる。


「いいよ・・・・無理に話さなくても・・・・。」


カカシはベッドの中で私を見上げる。


「ううん・・・・カカシに約束してもらいたいから・・・・。」


「約束?」


「うん・・・・だから・・・・聞いて?」


私が言うと、カカシは微笑んで頷いてくれた。












5年前。


私はゲンマに告白した。


いつから好きだったかなんて分からない。


幼馴染でずっと一緒にいたから。


でも、年頃になれば欲求は止まらない。


驚きながらもゲンマは私に手を差し伸べてくれた。


忍びではない私はゲンマが任務に行くたびに月に願っていた。


彼が無事に戻ってきますように・・・。


そして、3年前。


彼は長期の任務に出る。


私は待ってると約束した。


ゲンマも必ず帰ると約束した。


「じゃあな。」


と言って・・・。


だけど・・・。


いつになっても帰ってこなかった。


それでも慰霊碑に名前を刻まれることもない。


彼が生きててくれているだけで十分だった。


そして、1年がすぎ・・・。


彼は戻ってきた。


ちょうどゲンマが里に戻ってきたとき、私は自分の仕事で出張に出てて・・・。


ゲンマが戻ってきてから3ヶ月後に私も里に戻った。


そのときには・・・・・。


ゲンマには違う彼女ができていた。










「私はずっと・・・・ずっと・・・待ってた。


 ゲンマとまた笑い会える日々を。


 だけど、他に好きな女ができたのなら・・・・仕方ない。」


「諦めたんだ?」


「うん・・・・。相手の気持ちが自分から離れた時点で、その恋愛は終わるわ。


 それでもなお、別れることを認めなかったら・・・・みっともないだけだもの。」


「そうかな?」


「何が?」


「その人にもよるけど・・・別れたくないって言われて・・・・。


 うざいと思うことはないでしょ。」


「そうなの?」


「まぁ、遊びだったら別だけど・・・。


 本当に好きだったら・・・言われてうれしいと思うよ。」


「・・・・そっか・・・。でも・・・・私にはそんな勇気・・・なかった。」


「・・・・・。」


「もしそうしたとして・・・・また傷つくのが怖かった・・・。」


「・・・・そっか。」


「ピアス・・・・。」


「・・・・ん?」


「前は開けてたって言ったでしょ?あれも・・・・ゲンマに開けてもらったの。


 だから、別れたと同時に塞いだ。


 ピアスのせいにしたくないけど・・・・・それで私の運命が変わってしまったのなら・・・って。」


「・・・・・・・そっか・・・・。」


「・・・・今まで言わなくて・・・ごめん。」


私はカカシを見上げた。


「・・・・人の過去は・・・・そう簡単に聞いていいものじゃない。


 誰にだって辛い過去はある・・・。」


「そう言ってくれると助かる・・・。」


私が微笑み、カカシが微笑む。


「で、約束って?」


「・・・うん・・・・・・。」


私は足を抱き寄せる。


「・・・・カカシは上忍だから・・・・いろんな任務に行くと思う。


 私にそれを止める権利はないし、カカシもそれに従う義務もない。」


「・・・・・・。」


「私・・・・待ってるから・・・・。」


「・・・・ん?」


「どんなに長期で・・・・遠くの任務だとしても・・・・。


 私はずっとカカシを待ってる。」


「・・・うん。」


「もしそれが・・・・うっとおしくなったり・・・・他に好きな人が現れたら・・・・。


 ちゃんと報告してほしいなって・・・・。」


・・・・。」


「ゲンマとは・・・・ゲンマが任務にでる直前に話して・・・・。


 そのまま終わったから・・・。


 お互いにはっきり別れようと言われたわけじゃない。


 だから、今回みたく気持ちの切り替えがすぐにできなかったんだと思う。


 でも、ちゃんとはっきり別れられれば・・・。」


はもう別れたときのことを考えてるの?」


カカシの少し怒ったような言葉。


「俺は『ずっと待ってるから必ず帰ってきて』って言われるのかと思ってた。」


「だって・・・それは重荷になるかなって・・・・。」


との約束でしょ。」


カカシが起き上がって私を背後から抱きしめる。


「絶対守るのに・・・な。」


「・・・・うん。じゃあ・・・・必ず・・・・私の所に戻ってきて・・・・。」


「了解。」


微笑み合いながらキスをする。


「・・・そういえばさ・・・・ゲンマと何を話してたの?」


「んー?気にしないの。」


「まさか・・・・・ケンカしてたとか・・・・。」


「暴力で事を片付けるほど、俺たち子供じゃないよ。」


「・・・・・じゃあ・・・・?」


「んー・・・・の・・・・話をしてた。」


「私の?」


「・・・・・ゲンマに・・・・を譲ってくれって言われた。」


「・・・・・・それで?」


「・・・・・もちろん、譲れないって言ったよ。そしたら・・・・。」


「そしたら?」


「じゃあ、どうしてに会いに行かないんだ?って・・・・。」


「・・・・・・。」


「俺は・・・逃げてたのかも・・・。


 もしかしたらはゲンマを選ぶかもしれない。


 俺は振られるかもしれないって・・・・。


 それを確認するのが・・・・怖かった。」


カカシの額が私の肩にちょこん・・・とのる。


「木の葉のはたけ カカシはこんなにも気弱な青年だったのでした。」


「私はカカシらしいと思うけどなぁ・・・。」


クスクス笑いながらカカシの髪をなでる。


と、急にカカシが私の耳を噛む。


「な・・・・!」


「ひっとひへへ。」


「何言ってるか分からないよ。」


「じっとしてて。」


カカシに噛まれているところに吸引力を感じる。


しばらくしてカカシは口を離した。


「カカシ特性ピアスのできあがり。」


鏡を見ると耳たぶが赤くなっている。


これは3.4日は消えない。


は俺のモノって証拠。」


「・・・・そんなものなくたって・・・・。」


「俺がつけたいの。っても、体にもいっぱいつけちゃったけどね。」


「んもぉ!」


もつけてよ。」


「え?」


「俺をのモノにして。」


手を引かれ、カカシの膝に座る。


戸惑いながらもカカシの肩に唇を当てる。


そして・・・・付けた。


私の印。


「ずっと一緒にいよう。」


カカシは私の腰に腕を回す。


「・・・うん。」


カカシの頭を胸に抱く。




























「やっ。」


「もぉ!何回も言ってるでしょ!玄関から来てって!」


いつもの如く、窓枠に座っているカカシに怒鳴る私。


、来て。」


怒っている私は素直にカカシの隣に座る。


「はい、これ。」


「・・・・・?」


差し出された包みを不思議に思いながら開封する。


「・・・・・・これ・・・。」


中には指輪が入っていた。


「本当はピアスをかわいいって言ってたからピアスにしようと思ったんだけど・・・。


 俺の判断で指輪にした。」


ピアスのように紅い小さな宝石から羽根がはいてる。


箱から指輪を取り出し、私の右手の薬指にするカカシ。


「左手は・・・・まだ空けといてね。」


「うん・・・。」


「・・・・でかけよっか。」


「うん・・・。」


涙でぐしょぐしょの私の頭を抱き寄せてカカシが背中を擦ってくれる。


ー、いるかー。」


突然、玄関からゲンマが現れた。


「んなっ!」


カカシが驚いている。


「なんでここにゲンマがいるの!」


「別にいいでしょーが。俺がどこにいようと。」


ゲンマはぶすっとしてる。


「私が呼んだの。」


「んなっ!」


微妙にカカシが怒ってる。


「カカシの前で・・・これ、返したかったから・・・。」


本棚の奥に封印してあって昨日出しておいた箱をゲンマに渡す。


「・・・・。」


箱のなかのを見たゲンマは沈黙のあと、ふっと笑った。


「これ・・・お前にやったもんだ。俺に返すな。」


「うん・・・でも、返したかったの。」


「・・・・・じゃ、返してもらうかな。」


「・・・・・!」


突然引き寄せられた私はそのままゲンマの胸の中に倒れる。


そして・・・。


「んなっ!!!!!!!」


カカシが絶句してる。


「じゃ、ちゃんと返してもらったから。」


にや・・・と笑ってゲンマは去っていく。


私は顔を真っ赤にしてゲンマの唇の触れた耳たぶを押さえる。


!こっちこい!」


と、言いながらもカカシがこっちに来る。


「ゲンマに何された!?」


「え・・・耳たぶに・・・。」


「消毒するぞ!」


「え・・・カカシ・・・・っ!」


カカシの唇を耳に感じる。


「もうゲンマに近づくな!」


怒ってカカシは私に背を向ける。


・・・・これって・・・・ヤキモチ?


「カカシって・・・・けっこう独占欲強い?」


私の言葉にカカシはピクッ・・・と動きを止めた。


「・・・・・・悪かったな・・・・。」


私はカカシの背中に飛びついた。


「うわっ!」


バランスを取りながら私が落ちないように支えてくれる。


「・・・・・大好きだよ。」


「・・・・・ご機嫌取ろうとしてもダメだよ。」


と、言いつつも振り返ってキスをする。
























俺からの約束、してもいい?                




                      どんな約束?




いつまでも・・・。                      




                         いつまでも・・・・?




俺だけを見てて。                       




                          カカシ・・・・だけを?




そう、俺だけ。                         




                                そんなの、約束にならないよ。




なんで?                            




                                     だって、私にはカカシしか見えてないから。




そっか。                           




                          うん、そうなの。