気付くには遅すぎて


伝えたい言葉は 伝えられず


ただ流すしかない この涙


胸にあるのは 愛しさだけ













































伝えたい言葉を胸に














































「これを。」
「・・・・・・。」


机の上に出されたモノを眺めた。


「あの子の部屋からお前宛の手紙と一緒に出てきた。受け取れ。」
「・・・・・私が・・・ですか?」
「お前以外、誰がいる。」
「・・・・しかし・・・・・。」
「あの子の意志だ。蔑ろにするのな。」
「・・・・・了解。」


綱手様に言われ、それを手に取った。


















火影室から出て、アカデミーの樹に背を預けながら。
ずっと握り締めてきた拳を広げた。
中には銀色に光る筒で、所々穴が開いてそこから中に入っている紅いビーズが覗いている。


自分の首から下げられているモノを握り締める。


「こんな形でなんて・・・・ね・・・・。」


苦笑しか、出てこない。
苦笑しか出てこないはずなのに。


漏れる声は次第に嗚咽に変わる。


まさか、この俺が。
泣き方など遠の昔に忘れたと思っていた俺が。


あいつを思って涙を流すなんて・・・ねぇ?


















































「カカシ、エッチしよっか。」
「は?」


幼馴染で親友と呼べるが唐突に言った。


「エッチ。してみたくない?」
「えーっと・・・・。」


今、この現状を確認してみる。


二人して今日は休みで。
久しぶりにが俺の部屋に遊びに来た。
んで、は持参してきた雑誌を人のベッドの上で読みふけってて。
俺はと言うと、明日からの任務に備えて装備の確認をしていた。
正直、がいることすら忘れていた。


そんな状況下。
どこにもそんな色っぽい雰囲気というのは存在していない。


どうしてそんな言葉が出てきたのか。


「カカシ、興味ないの?」
「ないって言えば嘘になるでしょ。年頃なんだから。」


そう。
今の俺は青春真っ盛りのピチピチ16歳。
色恋事に興味があって当たり前。

でも、暗部に所属している俺としてはそんなことに現を抜かす時間などなく。
唯一の近くにいる女と言える存在はこのしかいない。


ただ、お互いを異性として見ているかと聞かれれば、否。
近すぎるこの距離が、異性というものを飛び越えていて。
幼馴染であり、仲間であり、親友であり、理解者でもある。


色っぽい雰囲気が生まれること事態、あり得ないというのに。


「でしょ?興味あるでしょ?」
「そりゃ、ね。」
「今のカカシは未成年だから風俗には行けないしね。」
「そーなんだよねぇ・・・・って、何言わすの。」
「ね、してみない?」
「えー・・・。」


目を輝かせてるから、視線を反らした。


なんというか、やっぱり俺としては。


「そういうのって、好きな人とする行為なんじゃないの?」
「私はカカシのこと好きだよ。カカシは私のこと、嫌いなの?」
「別に嫌いじゃないけど・・・。」


嫌いじゃない。
どちらかと言うと、好きだ。


でもその『好き』は友達としてので。
恋人としての『好き』かは微妙なトコ。



それはお互い様ってやつだと想う。



「じゃ、いいよね。はい、決定。」
「決定って・・ちょっ・・・!!待ちなさいよ!!」


勝手に決定して、服のボタンを外し始めるの手を慌てて掴んだ。


「何?」
「何って・・・少しは心の準備とか色々と・・・ねぇ?」
「色々って・・・・あ、アレか。」
「そ、そう。アレ。」
「カカシ、持ってるじゃん。」
「はい?」
「隠してあるの、知ってるよ?」
「お前・・・なんで知ってるのよ。」


アレ=明るい家族計画。


ま、男としての必需品としてそれぐらいは持ってる。
ただ使うタイミングというか、相手がいなかっただけで。
別に隠してるわけじゃ・・・・。


「持ってるなら、問題ないよね。」
「だからちょっと待ちなさいって!!」


ボタンを外そうとする手をしっかり掴んで。
暫しの深呼吸。


は・・・・怖くないの?」
「怖くないよ。」
「普通、こういうのって女のほうが怖がるもんなんじゃないの?」
「だって、カカシが相手だもん。怖がることはどこにもないでしょ?」


本当に怖がっていないの笑顔に。
そして、自分の中にある『性』に関する興味も膨らんで。


「せめて、俺に格好つけさせてちょーだいよ。」


の肩に手を回して腕の中に引き寄せて。
ちょっと驚いた様子のの目を見ながら。


「後悔だけはしないでね。」
「・・・・しないよ、そんなの。」


それだけ言って。
俺とは初めて。


キスというものをした。




































それからというもの。
が部屋に遊びにくる度に、体を重ねた。
まるで、猿の一つ覚えだ。










































「カカシ、はい。」
「何コレ。」


手渡された小さな箱。
振れば、中からコトコトと音がする。


「あんたの二十歳の誕生日プレゼント。」
「あー、よく覚えてたねぇ。」
「記憶力いいから。」
「どーだかねぇ?」


俺の言葉に怒り出したをほっといて。
箱の蓋を開けた。


「ど?気に入った?」
「んー・・・・。」


中に入ってたのはネックレスで。
ネックレスには、銀色に光る筒がついていた。
所々穴が開いてそこから中に入っている碧いビーズが覗いている。


「女趣味・・・じゃない?」
「そ?カカシのイメージにぴったりだよ。」
「・・・・そーかねぇ?」


意味が分からない。
これのどこが俺だというのか。


「ま、ありがたくもらっとく。」
「ありがたくもらっとけ。」


この場ではつけないとして。
そのままベッドの上に寝転んでいたの上に覆いかぶさる。


キスをして、その首筋に唇を這わせて。
16歳のときよりも数段器用になった手で、ボタンを外していく。


「・・・・あれ?」
「あ、ばれた?」


肌蹴たの胸元にさっきのプレゼントと同じネックレスがあった。
唯一違うのは、中に入っているビーズが碧ではなく、紅だということ。


「ペア?」
「たまたまね。自分のを創ったついでにカカシのも作ってみた。」
「ふーん・・・。」
「折角作ったんだから、たまにはつけてよ?」
「はいはい。」


ついででも、なんでも。
今の俺としては続きをしたくて。
の言葉を適当に受け流した。


















































「好きです。」


目の前の女は俯いたまま、そう呟いた。


24歳の夏。


「んー・・・今は彼女作る気はないんだよね。」


昔から告白されることには慣れてる。
ただ、恋人のために時間を作るほどの余裕がまだなかっただけで。
別にもてないわけじゃない。


ただ今はまだそういう特定の誰かをつくりたくない。



「応えられなくてごめんねぇ?」


泣きそうな女に笑顔を向けて。
そのまま歩き出そうとしたとき。
女が腕を掴んできた。


さんと付き合ってるって本当ですか?!」
「は??」


突然のの話題に、振り返った。


「いや、付き合ってはいないよ。」


付き合ってない。
だって、どっちからも告白をしたことはないし、確認をしたこともない。


まー、やることだけはやってるけど。


「どっからそんなこと、聞いたの?」
「カカシ上忍は覚えてないかもしれないけど・・・私と会うのは2回目なんです。」
「は?」
「私、さんと何度かチーム組んだことがあるんです。」
「あー・・・・。」


そういえば。
これから任務に行くのチームと。
任務から帰って来たばっかの俺のチームが偶然すれ違って。
その間に俺とでふざけあったときに、の後ろにいたかもしれない。


「あのときの雰囲気で付き合ってるのかなって・・・・。」
「いや、さっきも言ったけど付き合ってないよ。」
「なら・・・私を抱いてください!!」
「・・・・はい?」


どうしてそうなる。
今はの話じゃなかったのか。


「都合のいい女で構いません。その程度の付き合いでもいいんです。」
「あのねぇ・・・自分を安く売っちゃだめでしょ?」
「カカシさんにならいくらでも安く売ります!!
 さんのこと、尊敬してるから・・・。
 さんの彼氏だと思っていたのでせめて告白だけでもと思っていたのですが、
 付き合っていないのなら・・・・お願いします!!」


頭を下げられてしまった。
その様子を頭を掻きながら眺めていた。


16歳のときから、抱いた女はだけで。
別に付き合っているとかそんな間柄ではなく。
ただたまたまそこにがいて、お互いに都合がいいからそうなっただけで。


「・・・それでいいの?」


たまには他の女を抱くのもいいかもしれない。
俺の行動を制限される覚えは無い。

「はいっ!!」


顔を上げた女は嬉しそうに笑った。

















ずっとだけを抱いていた。
だから、他の女というのが新鮮で。


この女は?


じゃあ、あっちの女は?


俺は告白される度に都合のいい女を作っていった。



だけど、女と言うのは不思議なものだ。
あれだけ都合のいい女でいいと言っていたにも関わらず。
関係が長引くほど、女たちは恋人面をしていった。


それが疎ましく感じれば、容赦なく関係を終わらせていく。
女はいくらでもいる。




いなくなったら、また作ればいいだけのことだ。

















































「どうしたの?」
「いや?別に。」
「久しぶりに顔見せたと思ったら、ずっと黙ってるんだもん。」
「ちょっと、ね。」


他に女を作り出してからと会うことのは待機所でしかなく。
こうやって部屋を尋ねるのは久しぶりだった。


「変だよ、カカシ。」
「いや・・・とは長く続いてるな・・・・ってね。」
「そりゃ、幼馴染ですから。」


不思議ととは切れることがなかった。
切ろうとも思わない。


不思議と居心地がよかった。
幼馴染というのは続くものなのか。


なんとなくを抱きたくなって。
腕を掴んで引き寄せて。
そのまま唇を奪う。


は驚きはしたものの、抵抗することはない。


「ねぇ、聞いていい?」
「ん?」


明るい家族計画を装着中のわずかな時間。
うつ伏せになったままのが聞いてきた。


「私以外にも・・・・女、抱いてるの?」


つい、手が止まった。


「・・・・なんで?」
とは・・・って言い方。それって、そういうことでしょ?」
「・・・・・・あぁ。」
「・・・・そう。」


隠すことは無い。
だって付き合ってはいないのだから。
でも、なぜか。
胸の中に少しだけ罪悪感が広がった。


「嫌になった?」
「ううん。」
「なら、いい?」
「・・・・ん。」


装着し終わった俺は再度、の上に覆いかぶさった。






























それからもとの関係は続きつつ、他にも女を抱く生活が続いた。















































ある晩、が突然俺の部屋にやってきた。
俺が他に女を抱いていると知ってからがここに来ることは無かったのに。


「話があるの。」
「何?」
「あれ、誰かにあげた?」
「は?」


何のことか分からない。
でも、の顔はすごく真剣で、どこか泣きそうで。
のこんな顔を見たのは初めてだった。


「誰かにあげたの?」
「だから、あれって何?」
「私がカカシの二十歳の誕生日にあげたやつ!!」


言われて思い出した。
女の一人が部屋にあった何かを欲しがっていたから。
物を確認しないままあげてしまった。


部屋の中を見渡して、置かれていた場所を確認する。
でも、そこには何も無い。


「あげちゃったかも。」


いつものように笑顔で答えた瞬間。
の目から、涙が零れた。


?」
「・・・・あんた、最低だ。」
「あれぐらい、別にいいでしょ?第一男があんなもの・・・。」
「カカシにとってはあんなものかもしれないけど、私にとっては・・・・・っ!!」


続きの言葉を飲み込んだはそのまま俯いた。


「・・・・また作ればいいでしょ?」
「・・・・そんな・・・簡単なものじゃない・・・・。」
「そんなに難しかったの?」
「・・・・・もう、いい。」
・・・・?」


いつもと全然違う雰囲気のは。
そのまま部屋から出ようとして。


もう2度とと会えない気がして。


の腕を掴んだ。


「・・・・あれがあったから・・・・。
 付けてくれなくても、あれがここにあったから・・・・ここに来れたのに・・・・・。」
「そんなものがなくても、いつでも来れる距離だし、第一俺とは・・・・。」
「私の中であれが私とカカシの繋がりだったんだよ・・・・。
 あれがあったから・・・・ずっと・・・・我慢してこれたのに・・・。
 ・・・・捨てるならまだしも・・・他の人にあげちゃったなんて・・・・。」


頭の片隅で今、この場で起きていることに警笛が鳴っている。


このまま腕を離したら、そこで終わる。


・・・ごめん。そんな大切なものだって知らなかった・・・。」
「うん・・・でも・・・もう、いい。」
「今から返してもらうから。だから・・・。」
「・・・もう、いいの。」


の手が、俺の手に重なって。


離してはいけないと、分かっているのに。
離したらどうなるか予想できたのに。


の力ない腕に従って、腕を離してしまった。


「帰るね。」


涙をいっぱい溜めた目で、は笑ってその場を後にした。


追いかければいいのに。
なぜか、動けなかった。


失ったと、実感した。






絶対に失いたくない人を――――。



























あれ以来、とはぷっつりと切れた。
部屋を行き来することも、顔を合わすことも、会話することも。

繋がりが戻るかも・・・・と、女からあれを返してもらった。
全ての女と縁を切った。



だけど、は一向に会うことすら許してくれず。



そうなったことで、初めて。
自分にとって、がどれほど大切な人だったか。
自分がどれだけのことを想っていたのか。
がどれだけ、我慢してきたのか。



理解することが出来た。



言葉に出さなくても、俺たちは付き合っていた。
だから、居心地が良かった。


なのに、俺は言葉にしていないし、確認してないから、と。
その状況に甘んじていた。


それがどれだけを傷つけてきたのか。





謝罪の言葉すら思い浮かばなかった。























そして。
と最後に会った日から丸1年が過ぎようとしたとき。


慰霊碑にの名前が刻まれた。


忍だからいつかそうなることは覚悟している。
それが忍としての定め。


分かってる。
理解してる。


だけど・・・・・。


結局、謝らせてもらえないままだ。


















が英雄となって1ヶ月。
綱手様からの呼び出しで火影室に行けば。


「これを。」
「・・・・・・。」


机の上に出されたモノを眺めた。
それは、今自分の首に下げられているものの色違いのやつ。
が付けていた・・・・。


「あの子の部屋からお前宛の手紙と一緒に出てきた。受け取れ。」
「・・・・・私が・・・ですか?」
「お前以外、誰がいる。」
「・・・・しかし・・・・・。」
「あの子の意志だ。蔑ろにするのな。」
「・・・・・了解。」


綱手様に言われ、それを手に取った。













『ありがとう       


手紙には、それだけだった。
少し丸く小さな字で。


手紙の上に、水滴が落ちて、字を濁らす。


「・・・・・ごめん・・・・・・・・。」


嗚咽と共に出てくるのはあのとき言えなかった謝罪の言葉。


お前の気持ちに気付いてやれなくて、ごめん。
曖昧なまま、ずっと傷つけててごめん。
二人の繋がりを蔑ろにして、ごめん。


泣かせてしまって・・・・ごめん。


ずっとずっと、言いたかった。
会おうと思えば、強引にでも会えばよかった。


それなのに俺は。


拒絶と軽蔑の目が怖くて。
会いにも行けなかった。


生きててくれれば、それでいいと。
そう想っていたのに。


結局、俺は。


何もできないまま。
を傷つけたまま。


もう2度と会えなくなってしまった。





それなのに。
は。


ありがとう。


そう言ってくれた。












首からネックレスを外して。
チェーンにそれを通す。


手の中で二つ、転がるそれ。


確認してから、首につけた。








もう、誰も愛せない。
だって俺は。
だけを愛しているから。




失ってから気付くなんて・・・ねぇ?




俺はどこまで愚かな男だったんだろうね。





ねぇ・・・・