「運命には逆らえない。」


これが彼の口癖だ。













『メビウスの輪』








私の好きな人。


日向ネジ。


幼い頃はよく遊んだ人。


だけど・・・・。


彼のお父様が亡くなってから・・・。


彼は私と話すことがなくなった。


多少の挨拶はするものの、会話らしい会話はずっとしてない。

















「ネジ。」

私は死の森で修行の最中の彼を見つけた。

「・・・なんだ。」

ネジはこっちを見ようとしない。

それもいつものこと。

「あの・・・さ・・・・・。」

一般人の私には彼の動きが見えないから適当に視線を送りながら話す。

これもいつものこと。

「ちょっと・・・・話があるんだけど・・・・。」

「なんだ?」

「・・・その・・・・。」

「・・・さっさと言え。」

ネジは修行をしたままでいる。

「・・・・あのさ、話を聞くときぐらい・・・・修行するの・・・やめてよ・・・。」

「時間の無駄だ。」

「・・・・私と話すのが無駄だっていうの?」

私が頬を膨らませる。

「そうは言ってないだろ。」

ようやく動きを止めてくれた。

「で、なんの用だ?」

肩で息をしながら置いてあったタオルで顔を拭いている。

「・・・あのさ・・・・。」

「なんだ?」

「・・・・・・・・・・。」

「・・・・・・・・・・・用がないなら、帰れ。」

タオルを放り投げてネジがまた動き始めた。













昔はこんなんじゃなかったのに・・・・。















どんなに言いにくくて言い終わるまで時間がかかったとしても待っててくれた・・・。















「そんなに修行ばっかしてて・・・どーするの?」

「俺は忍びだ。修行して何が悪い。」

「そーだけどさぁ・・・。」

「文句を言うなら帰れ。」

「何かを目指して頑張るのもいいけど・・・。

 目指す先にたどり着く前に・・・・ネジがダメになっちゃうよ。」

「・・・・そうなったとしたら・・・俺はそうなる運命だということだ。」

「・・・・違う気がするけどなぁ・・・。」











今のネジは・・・。

ただひたすらに・・・・がむしゃらに・・・。

強さを求めているだけであって。

ネジの目には何も見えてない。









そんな気がする。









「・・・・お前には分からないよ。」

「・・・・そんなの話してくれなきゃ分かんない・・・。

 ただでさえ最近はそんなに話してないんだし・・・。」

「それならそれでいい。」

「・・・・なんでネジってそーなのかなぁ・・・・。」

「・・・・うるさいぞ。」

ネジに睨まれた私は樹の根元にチョコンと座ってネジを見つめる。

そんな私に構わず修行を再開するネジ。













私はネジが好き。













最初は気付かなかったけど。

ある日突然まともな会話をしてくれなくなってから気付いた。

私の心がネジをもとめている。









でも・・・。









私とネジの間にできた溝はもう深くて・・・。

話さなくなっただけでここまで溝ができるなんて思わなかった。









こんなことなら・・・・無理やりにでも会話してればよかったな・・・。









気付けばもう陽は暮れていた。

一般人の私にはもうネジの姿が見えない。

「・・・・ネジ・・・。」

「なんだ?」

「そろそろ帰らない?」

「帰りたければ先に帰れ。」

「・・・・・分かった。」

私は痺れた足を動かしてネジに背を向けた。





















暗い、暗い、森。

当然の如く、方向音痴の私は迷子になった。

しかも、雨。







最悪。









なんで雨も降るのかな・・・。

余計凹む。

「こういうときはっと・・・・。」

私は近くの樹にもたれてしゃがんだ。
















迷子になったら動くな。俺が見つけてやるから。














まだ一緒に遊んでいた頃、ネジに言われた言葉。

よく迷子になる私に言ってくれた。

そして、いつもネジが最初に見つけてくれた。









そして、今も・・・・迷子。

自分の気持ちも・・・・迷子。











ネジが好き。









好きすぎて・・・ネジの一言にもビクビクしてる。































いつの間にか私は寝ていた。

「やっと起きたか。」

私は隣にはネジが座っていた。

「あ・・・・・。」

「よく迷子になるな。」

「うん。」

「いくぞ。」

ネジは立ち上がり、私も立ち上がった。













そして歩き出す。












「・・・・・・。」

「・・・・・・。」









何を話せばいいのか分からない。









言いたいことはいっぱいあるのに。











「・・・・話したいことってなんだ?」

「・・・うん?」

「今日、言ってただろ。」

「あー・・・・うん。・・・・今度で・・・いいや。」

私は俯いた。

だって・・・・もう気分が凹んでしまったから。

朝は気合を入れていたから言えると思った。

だけど、今はもうダメ。

「・・・・変わったな。」

「何が?」

「昔はなんでも言いたいことは言っていただろ。」

「あー・・・・そーだね。でも・・・ネジも変わったよ。」

「・・・・・そーだな。」



















「ねぇ・・・・。」

「なんだ?」

「まだ・・・宗家のこと・・・恨んでるの?」

「・・・・分からない。」









ネジが立ち止まり、上を見上げた。









「あるヤツがきっかけで・・・・。

 もうどうでもよくなってきた・・・。

 でも、長い間恨み続けていたからか・・・。

 今の自分がどうしたらいいのか分からない。」

「・・・・そっか・・・・。」

「・・・・俺は・・・・どうすればいいんだろうか・・・・・。」















「ネジ、『メビウスの輪』って知ってる?」

「・・・・知らん。」

「一枚の細い紙を一回捻ってつなげると、8を横にしたような輪ができるの。」

「・・・・それで?」

「その輪の表に触れながら輪を回ろうとすると、いつの間にか裏にいて・・・。

 また表に戻ってきて・・・。

 だけど、その紙の真ん中を切っていくと、普通の輪に戻るんだよ。」

「何がいいたい?」

「んー・・・だから、ネジも一回はさみを入れてみればいいんだよ。」

「はさみ?」

「うん。自分の心にある『メビウスの輪』に。

 最初は痛いかもしれないけど・・・・最後にはすっきりするんじゃないかな・・・。」

「『メビウスの輪』・・・・か。」

ネジの頬に雨で濡れた髪がくっついている。

指を伸ばし、取ってあげた。











「あ、そっか・・・・。」

私は突然呟いた。

「どうした?」

「私も・・・・『メビウスの輪』を切っちゃえばいいんだ・・・・。」

「お前も・・・・迷っているのか?」

「・・・・迷っているって言うか・・・。度胸がないだけかな。」

「お前にもあるんだな。」

「失礼ね・・・・。」

「・・・・・悪い。」

「切っちゃっていい?」

「そんな簡単でいいのか?」

「簡単じゃないよ。だけど・・・・ネジがいてくれないと切れない。」

「俺が?」















「ネジが好き。」















「・・・・・・・!」















「いつからか話さなくなって・・・・・名前も呼んでもらえなくなって・・・。

 それから気付いたの。私はネジが好き。」

「・・・・・俺に・・・・どうしろと・・・・?」

困惑しているネジ。

当たり前だと思うけどね。

「何もしなくていいよ・・・。

 私のことふっちゃっていいし・・・。」

ふふっ・・・と笑う。

「ネジのことが好きだったから・・・・前に進めなかった。

 だから、・・・ふっちゃって。

 そうすれば私は次の恋に進める。」

しばらくは立ち直れないだろうけど・・・。

「・・・・・・。」

「ネジのそばにいたくて・・・。

 だけど、告白なんかしたら・・・・それこそ一緒にいられなくなっちゃう気がして・・・。

 でもさ、それって今も変わらないんだよね。

 私が会いに行かなきゃ会うことなんてなかったんだし。」

「・・・・・。」

「ごめんね。嫌な思いさせちゃって・・・・。」

「いや・・・・。」

「さ、行こう。」

私は1歩歩き始めた。

その後をネジが歩く。


































ネジに無事送り届けられた私はお風呂に入ってベッドに横になる。

寝ようとしても・・・・ネジの顔が浮かんだ。









切っちゃった。







『メビウスの輪』









一緒に切ったもの。









それはネジとのつながり。









きっとネジは困ったと思う。









ううん。もしかして、せいせいしたのかな?









これで修行の邪魔をする私がいなくなった。



















ネジが宗家を恨まなくなった。







それはネジが前へ進みだした証拠。







私だけが立ち止まってた。























私も・・・・進もう。















































コツン・・・・。








ウトウトし始めたとき・・・。

何かが窓に当たっている音がした。

起き上がり、カーテンを開けた。

外はもう雨が止み、きれいな満月。

「おい。」

下から声がした。

「・・・・え?ネジ?」

下には小石を片手にいっぱい持っているネジがいた。

「そっちにいっていいか?」

「あ、うん。気をつけてね。」

「俺を誰だと思ってる?」

ニヤ・・と笑ったネジは軽く地面を蹴るともう私の部屋の窓枠にいた。

「悪いな。」

「あ、うん。平気。」

下にいる両親を起こさないように二人で静かに部屋の中に入る。

「どうしたの?」

「・・・・・・。」

ネジが何かを差し出した。

それは・・・・。

「『メビウスの輪』・・・・。」

「家に戻ってから・・・・ずっと作ってた。」

私の机の上のペン立てからはさみを取り出し、ネジは切っていく。

そして・・・・1つの大きな輪になる。

「・・・・俺は忍びだ。」

「・・・・うん。」

「分家で・・・・宗家のために生きている。」

「知ってる。」

「だから・・・・宗家のヒナタ様に何かあればそっちに行かなくてはいけない。」

「・・・・・。」







なんとなく・・・・ネジの言いたいことが分かった。









「うん・・・・だから、いいよ。さっきのことは気にしないで?」

「・・・・・・・・。」

頑張って私が笑ったのにネジは笑わない。











「・・・・・。」











久しぶりに名前を呼んでくれた。











「俺は・・・・お前に前に進んで欲しくない。」

「・・・・・なんで?」

「・・・・・なんでって・・・・。」

「じゃないと私、立ち止まったままだもん・・・・。

 ネジだけ前に進んでて・・・・私だけ立ち止まってる。

 そんなの・・・・いや・・・・。」

「そうじゃなくて・・・・。」

「何よ。」

言葉に迷っているのか、ネジは困っている。

「先に進むのは・・・いいんだ。

 ただ・・・・次の恋に進む・・・・っていうのは・・・・。」

「は?」

「だから・・・・には・・・・俺を・・・・・。」

「ずっと好きでいていいの・・・・・?」

「・・・・・あぁ・・・・。」

月明かりでネジの顔が赤くなったのが分かる。

「俺は・・・・お前に甘えていたんだと思う・・・。

 何があっても会いに来てくれるから・・・。安心してたんだ・・・。

 ・・・・・これからは・・・・俺からも会いに行く。」

「あのさ・・・・。」

「・・・・なんだ?」

「ちゃんとネジの気持ちを言ってよ。」

「だから言ってるだろう。」

「そうじゃなくて。ネジが私のこと、どう思っているのか。」

「・・・・・分かるだろう。」

「言ってくれなきゃダメ。」

私はネジを見つめる。







ネジが俯き、顔を上げた。

















が・・・・・好きだ。そばに・・・・いてほしい。」















まっすぐ私を見ているネジ。















「・・・・・いっぱい会いにいっちゃうよ?」









「あぁ・・・。」







「名前、呼んでよ?」









「分かった。」









「何があっても・・・・私を見つけて?」









「・・・俺はを探し続けることが運命なのかもな。」









ネジがそっと私の手を引き、私もその力に逆らわない。











幼い頃のネジとは違う、『男』になりつつあるネジの体は大きくて。







私をすっぽりと包み込む。























『メビウスの輪』









私の『メビウスの輪』は・・・。









きれいな大きな輪になった。






















キリ番1122番Hitのみぃ様のリクエスト。

リクエスト内容は「ネジの甘め」です。

甘めにしあがったでしょうか?

ちかみに、BGMはキロロの『長い間』を聞きながら作りました。