・・・・俺はお前に普通の幸せは与えられない













































幸福の指輪










































油臭い店内。
細かな部品と、見慣れない工具。
そこに不釣合いな格好の
店内をぐるっと見渡し、目的の品物を持ってレジに向かった。





































「買ってきたよ。」


自分の部屋に入り、中にいるであろう人物に声をかけた。
返事を待たずに部屋に中に入る。
そこには、解体された・・・・機械人形。


「ちゃんと買ってこれたのか?」
「多分・・・大丈夫。」
「貸してみろ。」
「はい。」


さっき買ってきたモノを渡す。
受け取られたものはそのままサソリの腹部に潜り込む。


「・・・・どう?」
「・・・・少し待て・・・。」
「自分でできるの?」
「俺を誰だと思ってる?」


サソリは起用に部品を機械にはめ込んだ。


「あ、ぴったりだね。」


ちゃんと動き出した歯車を見て、は嬉しそうに笑った。
それを見て、サソリはふっ・・・と笑い、体を元に戻していく。


「私にやらせて。」
「壊すなよ。」
「何回サソリの体いじってると思ってんのよ。」
「・・・・おもちゃじゃないんだからな。」
「解ってるよ。サソリは私の大切な人だもん。」
「・・・・・解ってるなら・・・・いい。」


笑顔で呟いたに一瞬サソリは動きを止め、に全てを任せた。
の手は器用にサソリの体を戻していく。


「出来た!!」
「手馴れたもんだな。」
「毎日見てたからね。」
「どうかね・・・お前のことだからネジ1個忘れてたりしてな。」
「じゃ、確かめに行きましょうか?」


は立ち上がり、手を差し伸べた。


「・・・仕方ねぇな・・・。」


その手に捉まり、サソリは立ち上がった。
















































外は暖かい日差しが降り注いでいた。
公園のベンチに二人で座る。
ここは二人の定番の散歩コースだ。


「懐かしいね。」
「そうでもねぇだろ。」
「1年前だよ?」
「・・・・もう・・・そんなに・・・。」


サソリは目を細める。


「1年前、ここで私たちは初めて会ったんだよ。」
「あぁ・・・そうだな。」
「あの時は心底驚いたんだから。」
「なんで?」
「だって・・・・サソリ、動かないんだもん。」
「動いただろ。」
「動かないと思って近寄ったらいきなり動き出すから驚くんじゃん。」
「修行が足りねぇよ。」
「私は一般人ですから。」


二人はここで出会った。
この公園の、このベンチで。













































偶然通りかかったはベンチの上に横になってるサソリを見つけた。



声をかけようか・・・。



が近寄ると、今まで動かなかったサソリは目を開いた。


「それ以上・・・・近寄るな。」


しかし、はすぐ脇まで進み、そっ・・・とサソリの手を取った。
サソリは抵抗する力も、気力もなく、促されるままの後を歩いた。


のアパートに着くと、は有無を言わせずサソリを脱がした。
そして、見たものは・・・。


「気持ち悪いか?」


サソリの体を見て絶句しているを、自嘲的に笑いながらサソリは呟いた。


「ご覧の通り、俺は人間じゃない。
 人間の欠片も残っていない。
 だから・・・俺に関わるな。」


の目から体を隠そうと、服に手を伸ばした。
不意に、頬に何が触れた。


「残ってるよ。」


の手だった。


「ちゃんと、人としての心が残ってる。
 だから君は・・・・こんなにも泣きそうな顔をしてるんでしょ?」


何も言えなかった。

















俺が泣きそう?

馬鹿な・・・。

だって、俺は・・・・。



















「ちゃんと『治る』よ。大丈夫。」


止まったままのサソリに笑いかけ、はサソリの腹部の歯車に触れた。







はサソリの体の汚れを拭いた。
丁寧に、1つずつ。
その後、工具箱と救急箱を出してきた。
が・・・。
何をどうしたらいいのか解らず、困っていた。


「・・・ここのネジを外してくれ。」
「・・・・ここ?」
「違う。その隣だ。」
「あ、ここね。」
「・・・それを外してそのビスを取って・・・中を開けろ。」


気付けば、サソリはに教えていた。
自分を『治す』ために・・・。














































「実はね、あの後部屋の掃除したらネジが1個出てきたんだよね。」
「・・・・・だからすぐ腕が外れたのか・・・。」
「気にするな♪」
「・・・・ばかなヤツだ・・・。」


ケラケラ聞こえる笑い声に、サソリはふっ・・・と微笑んだ。


サソリは『治療』を繰り返して以前と同じまでに治った。
それが半年前。


「なんだかんだ言って、居心地いいんでしょ。」
「バカ言え。本当はいつ出てってもいいぐらいだ。」
「嘘言わないの。」
「ただ、またすぐ動かなくなったりしたら・・・って思って・・・。」
「あれからしばらくは触らせてくれなかったじゃん!!」
「・・・他にも・・はマヌケだから・・・・心配で・・・。」
「私のこと心配なんだ?」
「・・・・黙れ。」


クスクス笑うと耳たぶを赤くして仏頂面のサソリ。
どちらからともなく、手を繋ぐ。


ふと、近くの教会の鐘が鳴り響いた。
沢山の人が出てきて、歓声を上げている。


「見に行こう!!」
「お、おい・・・!!・・・!!」


に手を引かれ、サソリは走り出した。












































近くまで来て、結婚式だったのだとわかる。
サソリとしてはなるべく人の多いところにはいたくなかったが、
は結婚式に見とれてしまい、動きそうにもない。
仕方なくに付き添う。


「サソリ、見てっ!」


は中から出てきた新郎新婦に歓声を上げた。


真っ白なウェディング・ドレスに真っ白なベール。
幸せそうに微笑みあう二人。


「きれいだね。」
「・・・そうか?」
「女の夢だもん。」
「・・・そうか・・・?」


サソリの顔が少し曇った。


「・・・・うわっ!!」


突然、の手の中に白い花束が落ちてきた。
ブーケ・トスだ。
は新婦を見上げた。
新婦はうれしそうにに微笑みかけた。


















































帰り道、二人は手をつなぎ、それぞれの物を持っていた。
サソリは予備のネジとソケットの入った袋。
はさっき投げられたブーケを。


「きれいだったなぁ。」


さっきからは同じコトを呟いていた。
嬉しそうに、ブーケを見つめながら。


しかし、サソリの顔は曇ったままだった。


「やっぱいいよなぁ。」
「・・・・・そんなに・・・いいか?」
「まぁね。そりゃ夢だもん。」
「・・・・・女の・・・夢・・・か。」
「サソリ?どうしたの?」


サソリの様子がおかしいことに気付いた。


「・・・・俺は・・・俺にはお前の夢は叶えられない。」
「・・・・サソリ?」
「・・・・なぁ、。俺はここにいていいのか?」
「突然何言ってるのよ。今までそんなこと聞いてきたことないのに。」


真面目に聞くサソリにつられては笑いを止めた。


「・・・・俺は歳を取らない。」
「・・・・・。」
「俺は一生、このままだ。」
「・・・・・。」
「成長することはない。」
「・・・・・。」
「俺は・・・・人間じゃ・・・。」
「それ以上言ったら怒るよ。」


の冷たい声が響く。


「・・・・俺はお前に普通の幸せは与えられない。」
「例えば?」
「・・・お前を・・・抱くことも・・・出来ないし・・・。
 抱けなければ・・・・子供も・・・。」


サソリの顔が苦痛に歪んだ。


















俺は人間じゃない。
普通の女としての幸せをあげられない。
女としての悦びも、母としての慶びも・・・。


俺は何1つ、してあげられない・・・。




















「なぁんだ。そんなこと?」


神妙なサソリと対照的には笑い出した。


「サソリって、案外私のこと解ってないなぁ。」
「・・・・・?」
「結婚式は確かに女の夢ではあるけど・・・。
 それが私の夢だって、いつ言ったかしら?」


は怒ったようにサソリの顔を覗き込んだ。


「私の夢はサソリとずっと一緒にいること。
 で、私の幸せは、サソリと一緒にいることよ。」


の手がサソリの頬に触れた。


「抱き合うことはできなくても、ほら、こうやって触れ合える。
 それだけで十分じゃない。」
「・・・・・・・・・。」
「形式に囚われることなんか何もないのよ。
 二人が家族だって思えば、家族にだってなれる。
 子供が欲しかったら、養子をもらえばいい。」
「・・・・・いいのか?」


答えの代わりに、は微笑んだ。


「・・・・ただ、ね。」
「・・・・なんだ?」
「不安なの。」
「何が?」
「・・・・あなたを一人にしてしまう・・・・。」


の目に涙が溜まる。


「あなたは確かに歳をとらない。
 だけど、私は確実に歳を取ってしまう。」
「・・・・安心しろ。」
「・・・・サソリを・・・・一人にしてしまう・・・。
 それがどんなに残酷なことか・・・。」
「気にするな。」
「・・・・それを知っていながら、私はあなたと一緒にいることを夢見てる・・・。」
・・・・。」


サソリがを引き寄せた。
サソリの腕の中にすっぽりとは納まってしまう。


「酷い事をしようとしてる私は・・・サソリと一緒にいていいのかな・・・。」
「俺が許可する。だから、ずっと俺のそばにいろ。」
「サソリ・・・・。」


の腕がサソリの背中をつかんだ。


「これ、やる。」


サソリの手の中にコロン・・・・とソケットが入っていた。


「俺の一部だ。」
「サソリの?」
「・・・この体になってから・・・ずっと俺の中にあった物だ。
 核・・・心臓を支える部分に使っていた。」
「そんな大事なもの、もらえないよ・・・!!」
に・・・持っててもらいたいんだ。」


サソリはの左手を取った。
薬指にはめる。


「・・・結婚式みたいだね。」
「・・・・それで、いい。」



「ずっと一緒にいてね。」
「ずっと一緒だ。」










・・・。

お前の心臓が止まった瞬間。

俺は自分の意思で、この体を動かしている核を止める。

それを言えばきっとは反対するだろう。

だが、それは俺の自由だ。





お前のいない世界で動いている意味なんかない。





俺を人として扱ってくれた、お前への人としての・・・・・。










はい、サソリ短編でしたぁ!!
キリ番26100Hitしていただいたこのみ様のリクエストです。
内容は「サソリの糖分多め」でした。



さて、いかがなものか。


私自身がサソリを掴んでいなかったので・・・。
すいませんでした・・・。



このみ様のみお持ち帰りオッケーです。