全ての決定権は自分にあり、全ての責任は自分が負う。


もしチームなんか組んでたら、仲間割れして全滅しかねないし、


誰かの足を引っ張るのも、引っ張られるのもいやだ。









































私を愛して










































一人、静かな慰霊碑の前で本を読む。
これが最近の私の日課。


本来は待機所でいつ緊急の依頼が来てもいいように待機していなきゃいけない。
だけど、最近平和になりつつあるせいか。
高額な上忍に依頼するような馬鹿な客はいない。


まぁ・・・本当の意味での平和ではないけれど。
まだ各地で戦争はある。
だけど、規模が小さい上に戦火も下火になりつつあるから。
上忍ほどではないければ、そこそこ経験のある中忍でも勤まる仕事。
上忍の出る幕はない。


「あーあ・・・このままお払い箱・・・かなぁ。」


背を預けている慰霊碑に呟いてみる。
当然、返事はないものの、アイツに呆れた顔をされた気がしてくすっと笑った。


「しかたないでしょ?これが私の性格なんだから。」


慰霊碑を小突いた。


「イテッ!!」


・・・・え?
慰霊碑が悲鳴?


一瞬、驚いたものの、すぐに声の主を思い出してため息をついた。


「また来たの?」
「あ、ばれちゃった?」


私からは死角になっている慰霊碑の後ろから銀髪の少年が出てきた。


「カカシ・・・私に構うといいことないわよ。」
「俺はさんと一緒にいれるだけで幸せなんだけどね。」
「ったく・・・・あんた、今日の待機の当番じゃなかった?」
「上忍でごった返してるんだ、俺がいなくても大丈夫でしょ。」


カカシは嬉しそうに笑って、私の前に移動して腰を下ろした。


カカシは17歳にして里一番のエリート忍者と言われている。
確かに腕はいいらしい。
チームを組んだことはないけど、みんな打ち合わせでもしたかのようにそう呟いている。


でも・・・。


私には3つしか変わらない目の前の少年からそんな雰囲気は感じ取れない。
無邪気に屈託なく笑っている、ちょっと生意気な少年。
それぐらいだ。


「待機所に顔出したらさんがいないから出てきちゃった。
 案の定、ここだったけどね。」
「・・・・・・スキじゃないのよ。」


私は人と接するのが苦手。
一人が好き。
別に誰かと話さないと生きていけないわけじゃないし、
代えって無意味に行動を一緒にして気力を消耗するより全然楽だ。


任務のときもそう。
私は常に独りで任務をこなしてきた。
全ての決定権は自分にあり、全ての責任は自分が負う。
もしチームなんか組んでたら、仲間割れして全滅しかねないし、
誰かの足を引っ張るのも、引っ張られるのもいやだ。


だから、私は待機所には寄り付かない。


「俺もあそこ好きじゃないから。
 さんがここにいてくれて助かってるし。」
「カカシが?」


カカシは仲間思いで誰とでも平等に接する。
何よりもみんなから好かれているのに。

あー・・・私に気を使ってるのか。


「変な気を使わないで。そうゆうの、嫌だから。」
「別に使ってなんかないよ。本当にそうなんだから、しょうがないでしょ。」
「・・・・好きにすれば。」
「そうする。」


そう言って、カカシは笑った。


カカシはやけに私に懐いている。
最初はうざったくて、逃げ回ってたけど、諦めた。
どこに行っても、必ず見つけられてしまうから。
だから、最近は最初にいた場所・・・慰霊碑から動かない。


手の上に開かれた本に視線を戻した。
空気が動いた。
カカシが私の隣で横になっている。


さんっていい匂いがする・・・。」
「・・・昨日焼肉食べたからかしら?」
「そうじゃなくて!!・・・って、一人で焼肉?」
「・・・・悪い?」
「俺も誘ってほしかった!!」
「なんでカカシを誘わなきゃならないのよ!!」
「一人で焼肉なんて淋しすぎるでしょ!!」
「あんたに心配されたかないわよ!!」
「俺が嫌なの!!」


カカシが体を起こして私をじつと見てくる。
何度か見たことのある、その目。
何かを訴えかけてくる、目。


さんが一人でいるとき、絶対隣にいたいの!!
 さんを一人にしたくないの!!
 少しは俺の気持ちも笑ってよ!!」


半分怒った、半分泣きそうな、顔。


つい、ぷっと吹き出してしまった。


「どーしてそこで笑うかなぁ・・・・。」
「・・・・悪かったわ。」
「・・・ったく・・・・人が真剣に話してるのに・・・。」


ぶつぶつ言いながら、再度横になったカカシ。
そのいじけてる様子が可愛くて・・・。


「次焼肉するときは誘ってあげるわよ。」


つい、らしくないことを呟いてしまった。
その瞬間、気のせいか、カカシのお尻あたりに尻尾が見えた。


「・・・・絶対だから。約束でしょ。」
「はいはい、約束ね。」


カカシの尻尾がパタパタ嬉しそうだ。


























カカシはいつも突然現れる。
それも私が一人でいるときに。


カカシは私から笑みを引き出してくれる。
自然と微笑んでしまうような。





カカシといるときの自分が・・・・好き・・・だったりする。










































「俺、明日から任務になっちゃった。」
「あら、そう。」


いつものように私の隣で寝転んでいるカカシ。
いつものように本を読んでいる私。


「・・・・それだけ?」
「私たちの仕事は依頼された任務をこなすことよ。分かってるでしょ?
 やる気が出ないのなら・・・そうね、帰ってきたらご褒美に焼肉してあげるわよ。」


いつもならこれで元気になるはず。
だけど・・・・カカシはまだ寝転んでいる。
なぜ?



「・・・・・まだ各地で戦争が続いてて・・・。
 それに便乗して悪さをする奴らを捕まえるんだけどさ。」
「随分楽なのね。上忍が出るほどのものでもないでしょうに。」


本当はけっこう辛い任務。
戦地で悪さをしでかすってことは、戦地でも余裕のある輩。
それなりに厳しい任務。
だけど、カカシなら・・・。


「それでさ、ツーマンセル・・・なんだ。」
「へぇ・・・誰かの足を引っ張らないようにね。」



「・・・・・一緒に行かない?」
「・・・・・・・・・・・・。」


本を閉じた。
同時にカカシも体を起こし、私を見る。


「火影様に言われたんだ。
 自分が同行してほしい人を誘っていいって・・・。」
「・・・・・・・・。」
「俺、さんと一緒に行きたいんだ。
 さんが単独任務専門なのは知ってる。
 だけど・・・一緒に任務をこなしたいんだ。」
「・・・・ダメ。」
「絶対に足を引っ張らない!!俺が守ってみせるから!!」
「それでもダメ。」








「・・・・まだ・・・・・忘れられない?」









淋しそうな、切なそうな、小さな声で、一瞬空耳かとも思った。


「まだ・・・彼のこと、忘れられないの?」
「・・・・・な・・・・んで・・・・・。」
「もう・・・十分な時間は過ぎた。後はさん次第でしょ。
 いつまで一人でいるの?それでいいの?」
「・・・・・知って・・・・・?」
「・・・・・俺が・・・・。」


言葉を切ったカカシは俯き、目が泳いでいる。


「・・・・・まさか・・・・・。」


頭の中で、何かが繋がった。


















私がいつも慰霊碑にいるようになったのはそこに大切な人が眠っているから。








忍として、男として、人として、私の一番大切だった人。





















数年前、あいつがスリーマンセルでの任務に赴いたとき。
まだ幼いチームメイトを庇って、死んだ。

























幼いチームメイト・・・・きっと今頃はカカシぐらいに成長してるはず。



「・・・・・あの時の・・・・・。」
「・・・・・ごめん・・・・・。」


私が何を言いたいか分かったのか。
カカシは消え入る声で呟いた。


「あの時は・・・・どうすることもできなかった。
 敵に囲まれて・・・・彼が突破口を開いてくれたんだ・・・・。
 感謝してる・・・・しても・・・しきれないほどに・・・・。」


目を閉じたカカシ。
その言葉に嘘はないと思う。


だけど、なぜか。
私の中で沸々と怒りがこみ上げてきた。


「・・・・仕方ないわ。
 任務中だったわけだし、全滅は避けなければならない。
 ましてや、カカシは写輪眼の持ち主だもの。
 遺体だって他国には渡せない・・・・。」


任務中の殉職。
それは仕方のないこと。


幼い未来多き少年を守ったんだもの。
誰も彼を責める人はいなかった。


その少年が写輪眼の持ち主ならば、なおさら・・・。



じゃあ、この怒りは・・・・何?
頭では理解してるのに・・・・なんで?



「退院して・・・知ったんだ・・・。
 彼が亡くなってから・・・・その恋人が単独任務専門になったと・・・。」
「・・・・・・・。」
「待機所にもいない・・・・任務でも一人・・・・。」


カカシが目を開けた。


「・・・・・どんなに・・・・淋しかったんだろう・・・・・・って・・・。」


「馬鹿にしないで!!」


私の中で何かが弾けた。


「元々私は人とつるむのが苦手だったのよ!!
 だから、前々から基本的に任務は単独だったわ!!
 だから、アイツがいなくなったからどうこうってのは全くないわ!!」
「じゃあどうして待機所に顔を出さなくなった?!
 なんでいつも慰霊碑の前にいるんだ!!」
「なんでそこまであんたに説明しなきゃいけないのよ!!」
さん・・・・俺はまたさんに前見たく笑ってほしいだけなんだ・・・。」
「・・・・・ははーん・・・・分かった。」


急におかしくなった。


「カカシ・・・あんた、私に同情してるだけでしょ。」
「・・・ちがっ!!」


同情。
その言葉を意識した途端、私の中で燃えている火に油を注いだ。



「一人淋しい私を甲斐甲斐しく世話して、また前のように笑わせてあげようって・・・。
 それで仲間からのお株を上げようって魂胆か。考えたものね。」
「そうじゃない!!俺は・・・・!!」


カカシの腕が私の肩に伸びてきた。
その手を振り払う。


「お生憎様。
 私は元々こういう性格で、誰かと行動を共にすることはなかったわ。
 私を笑顔でいっぱいにしてあげたかったみたいだけど・・・・残念ね。」
「・・・・・・・・さん・・・・。」
「これからずっと、私は単独行動して行く予定よ。
 ・・・・・落ちぶれたものね・・・・年下に同情されるなんて・・・・。
 もう・・・・私の前に現れないで・・・・。」



カカシは・・・・困惑した表情のまま、何も言わず姿を消した。


笑っちゃうわ。
3つも年下の思惑に、危うくはまるところだったなんて。


危うく・・・・心を開きかけていたなんて・・・。


私の感性も鈍ったものね。
困ったもんだ。








一人残された私は・・・・なぜか泣いていた。
涙が後から後から、止め処なく溢れてくる。


どうして?


どうして私は泣いてるの?



分からないよ・・・・そんなの。






































翌日にはカカシは里を出て行った。
同行者に別の上忍くの一を引き連れて。


私じゃなくてもよかったんじゃない。


































それからどう過ごしたのかあまり覚えていない。
待機所にいるのは苦手だから外で本を読む。
だけど・・・・慰霊碑に行く気にもなれない。
だから、いつもフラフラして手ごろな場所を見つけて腰を下ろしていた。


なんでだろう。


昔はこんなことに持て余されることはなかったのに。










































あの言い争いから3週間が過ぎた。
チビチビと小さな仕事をしていた私はアカデミーに報告書を提出しに行ったとき。


「カカシ、重症なんだって?」


突然、耳に入ってきた・・・カカシの名前。
つい、足を止めてしまった。


「当分安静第一で、しばらくは入院生活みたいよ?」
「カカシほどの腕の持ち主がなぁ・・・。」
「同行したくの一を庇ったんだってさ。」


カカシ・・・帰ってたんだ。
怪我・・・・してるのか・・・。
重症って・・・・どのくらいの怪我なのかな・・・。



ま、私には関係ない。
当然の報いってとこかしら?
私を欺こうとしたんだから。



報告書を持ち直して、私は足を進めた。


















私には関係ない。











































なのに、私は病院に来ていた。
病院のすぐそばに生えている樹の枝の上。
何回か入院したこともあって、重症患者がどこの部屋か分かっている。
気配を消して、その部屋の窓際に降り立った。


そっと窓を開けて、中に入る。
ベッドの上ではいろんなコードを体につけたカカシが寝ている。
包帯で巻かれたカカシ。
青白い顔色。


手を伸ばして、カカシの腕に触れた。
暖かい。


生きてる。


ほっとした。
ほっとして・・・・我に返った。


「・・・・何やってんだろ・・・・私。」


アカデミーでカカシのことを聞いて。
ずっと落ち着かなくて。
気付いたら・・・・カカシに触れてほっとしている。


「バカみたい・・・・。」


呆れたように自分に笑ってしまった。
最初はクスクス笑ってたのに、次第に声が大きくなりそうになって・・・。
そんな自分がおかしくて、更に笑いはこみ上げてくる。
笑いを堪えるのに必死。


「あー・・・・もう・・・・。」


ベッドの脇に膝を立て、カカシの髪に触れた。


「心配・・・かけないでよ・・・・バーカ。」


サラサラの髪をつんつんと引っ張ってやった。


「早く・・・・元気になりなよ・・・。焼肉・・・やるんでしょ?
 待っててあげるから・・・・さ。」


今度は頬をつねった。。


「・・・早く元気になって・・・・みんなを安心させてあげなさいね・・・。」


最後に会った時、あんだけ言い争いしたんだ。
ましてや、今のカカシはぐっすり寝てる。


「私・・・・カカシのこと・・・・好き・・・・だよ。」


覚えてるわけがない。
だから、つい、ポロッと、口から零れた。


あぁ・・・そっか。
今気付いた。
だから・・・・同情されてたのが・・・いやだったんだ。
私が欲しかったのは・・・・同情じゃなくて、愛情だったんだ。


だから、悔しかったんだね。


でも・・・・それをカカシに求めてもしょうがない。
カカシは同情だったんだから。


カカシの頬に唇を触れさせた。


「じゃあ・・・ね。カカシ。」








今更気付いた恋心。
誰にも知られずに、ここで終わる。










体を起こして、立ち上がって。
窓から帰ろうとしたとき。


「俺も好きだったよ。」


背後から声がした。
振り返ると、カカシの目がしっかりと私を捕まえていた。


「俺はずっとずっと・・・・さんが好きだった。」
「・・・・カカシ・・・・・。」
「ねぇ・・・まだ帰らないで。もっと・・・話したいこといっぱいあるんだから。」


カカシの言葉には何かの魔法がかかっているのか。
体が勝手にカカシのベッドの脇に移動して、膝を立てて、カカシの顔を見つめていた。


「初めてさんを見かけたときから・・・好きだった。
 でも、他人を寄せ付けない感じがしてて・・・近寄れなかった。
 ・・・・彼だけが・・・・自然とさんの隣に立つことを許されていて・・・。
 いつか・・・俺もそうなろう・・・って・・・・。」
「・・・・・・カカシ・・・・・。」
「彼のことは・・・・本当に申し訳なく思ってる・・・・。
 どんな罵声も罵りも・・・覚悟してる。
 だけど・・・・これだけは信じて・・・ほしい。
 決して同情じゃない・・・・・さんが好きだから・・・笑ってほしかったんだ・・・。」


カカシの手が私の頬に触れた。


「・・・・・俺じゃ・・・ダメ?
 さんを笑わせるには・・・・役不足?」


首を横に振った。


「・・・・俺と・・・付き合って・・・・?」


・・・・・小さく・・・・頷いた。


途端に体を引かれて、カカシの上に乗ってしまった。
慌てて降りようとする私を抑えて、カカシがキスしてきた。


「・・・・・好きだよ・・・・さん・・・。」
「・・・・・絶対に・・・・一人にしないで・・・・・。」


力強い腕に抱きしめられながら、私もカカシを抱きしめた。


「・・・ッテッ・・・!!」
「あ・・・ご・ごめん・・・!!」


カカシが重症ということをすっかり忘れていた。
慌ててカカシの上から降りた。


「・・・・くの一、庇ったんだって?」
「ま、女の子の体には極力傷が残らないほうがいいでしょ。」
「ばかねぇ・・・・それで自分が死んでたら意味ないじゃない。」
「死なないよ。」
「分からないわよ。」
「絶対に死なない。」
「大した自信ね。」
「だって、俺が命かけて守りたいのはさんだけだし。
 他の女のために命張らないよ。」
「・・・・・でも重症。」
「これはさんが心配して飛んできてくれるために・・・ね。」


ペロッと舌を出したカカシは幼く見えた。
呆れてため息がでる。


「これで私が来なかったらどうするつもりだったの?」
「絶対来るって分かってたし。」
「そんなの、分からな・・・・。」
「あの時、さんが怒ったのは同情されたと思ったからでしょ?」



3つ年下なはずなのに。
全てはお見通しだったってわけか。



「今度、ツーマンセルで任務、行こうね。
 さんは俺専属ってことで。」
「別に専属じゃなくっても・・・。」
さん、待機所にいないから知らないかもしれないけど・・・。
 けっこう上忍の間で人気あるんだよね。
 だからさんが待機所にいなくてほっとしてたんですよ。」


そういえば。
私が待機所にいなくてカカシにとって都合がいいって言ってたっけ。


「だから、俺専属で。他の男と絶対にマンセル組ませない。」
「・・・・・その前にやることがあるでしょ。」


カカシがきょとん・・・としてる。


「元気になって・・・・・焼肉、一緒にやってくれるんでしょ?」
「・・・・そうでした。」


伸びしてきたカカシの手。
今度は振り払わずに待っている。
手に引かれて、顔を寄せた。
目を閉じる。


重なる唇。


「一緒にいられるなら毎日焼肉でもいいな・・・・。」
「それじゃ飽きちゃうでしょ?たまにはすき焼きも・・・ね。」

















36000Hit、いる様のリクエストでっす!!
内容は「20歳ぐらいの忍」ってことでした。
なので、カカシを17歳にして、年上のヒロインに設定。
んー・・・・会話的に幼くしすぎ?
すいませんでした!!