所詮、一般人と忍は。
全ての考え方が違うのかもしれない。
いらない大切なモノ
情緒の後。
疲れたのか、隣で安らかに眠る愛しい人の肌に。
窓から差し込む月明かりがそっと当たっていて。
白い肌を浮き立たせる。
その肌に唇を落とした。
「・・・・・ん・・・・・カカシ・・・?」
「・・・ごめん・・・起こしちゃった?」
「んーん・・・・寝れないの?」
の問いかけに首を振る。
「元々眠りは浅いから。」
「ちゃんと寝なきゃ・・・・だめだよ・・・。」
「うん・・・・分かってるよ。」
寝ぼけてるのまぶたにキスをして。
再度彼女を眠りの世界に送ってあげれば。
は寝息を立てて眠り始めた。
安らかな寝顔。
腕の中に抱きしめられる小さな体。
いつまでも続けばいい、この幸せな時間が。
ずっと、永遠に。
信じて疑うことのなかった日々に。
終止符を打ったのは・・・・・・・・俺。
よく晴れた穏やかな日。
長期任務から帰って来た部屋は埃っぽくて。
泣く泣く大掃除をしていたら。
ベッドの下から何かが出てきた。
「・・・・これって・・・・・。」
手にとって確認すれば。
それは想い出の欠片。
「・・・・そういえば・・・・失くしたって騒いでたっけ・・・。」
自然と口角が上がった。
被っていた埃をそっと拭ってあげて。
手のひらで転がす。
小さなピアス。
銀色の。
「こんなところにあったのね・・・・・。」
懐かしい思い出。
嫌な事だって沢山あったのに。
思い出すのはきれいな場面だけ。
図書館で目当ての本が見つからず、係の人に声をかけた。
「ちょっと幻術の本、探してるんだけど・・・。」
「あ、ちょっと待ってくださ・・・・。」
声をかけるタイミングを間違えた。
彼女はこれから本棚に戻す予定の・・・・彼女には不釣合いな量の本を抱えていて。
今にも落としそうだった。
「持ちますよ。」
「あ、すいません・・・。」
それが彼女、との出会いだった。
それからなんとなくのことが気になって。
何度も図書館に通って。
そのうち図書館の外で会うようになって。
手をつないで、キスして、抱き合うようになった。
「あげる。」
「へ?」
「いいから、受け取って。」
「う、うん・・・。」
強引にの手の中に小さな包みを握らせて。
困惑しているに背を向けて彼女のベッドに横になった。
「これ・・・・。」
「・・・・・・・つい・・・ね。」
柄にもないことをしてると思う。
今までは女に貢がれたことはあっても、貢いだことはなかった。
違うな。
貢いだってのは語弊がある。
俺はにそれをプレゼントしたかったんだ。
「カカシ、見て。」
「んー?」
何気ないふりをして振り向けば。
の白い耳朶に小さな銀色のピアスが控えめに光っていた。
「似合う?」
「んー・・・・まぁまぁ?」
「ひどーい。」
本当はとても似合ってると思う。
だけど、照れくさくて、素直に言えなかった。
「ありがと・・・・大切にするね。」
「・・・・外さないでね。」
「うん、絶対外さない。」
を腕に抱き寄せれば小さくて、暖かい。
俺からの贈り物を身に付けている。
それは俺のモノだと言っているみたいで。
照れくさくもありながら、どこか誇りのようにも思えた。
「で、あの男は誰?」
「だから・・・何度も言ってるじゃない・・・仕事の・・・。」
「上司?まだそんなこと言うの?」
泣きそうなを問い詰める苛立ちを隠せない俺。
重苦しい雰囲気が部屋に充満している。
任務から帰って来た俺は真っ先にの部屋に向かって。
の部屋から男が出てくるのを見てしまった。
「なんで上司がの部屋に来るの?」
「明日提出しなきゃいけない書類を忘れちゃって・・・・。」
「それだけ?本当に?」
「本当よ!!信じてよ!!」
涙をいっぱい溜めた。
「どーだか?忘れ物届けたらそのまま帰せばよかったでしょ?
なんで部屋に上げたの?に浮ついた気持ちが・・・・。」
「わざわざ届けてくれたのに門前払いなんて出来ないでしょ?」
「そうすればよかったんだよ。」
の言葉に聞く耳を持たない俺。
話は平行線。
「・・・・・カカシだって・・・・・。」
俯き加減にぽつり・・・と呟かれた言葉が余計に俺を苛立たせた。
「俺が・・・・何?」
「・・・・なんでもない・・・。」
「言いたいことははっきり言いなよ。」
の顎を掴んで、俺の方を向かせた。
「・・・・カカシだって・・・抱くじゃない・・・・私以外の・・・。」
「それは任務だって前から言ってるでしょ?」
「分かってる!分かってるけど・・・!!」
「じゃあ何?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・。」
は言葉を閉ざした。
唇を噛んで、じっと俺を見る目。
涙だけが零れていく。
「・・・・・ごめん・・・・言いすぎた。」
を抱き寄せ、労わるように髪を撫でる。
腕の中ではが首を振った。
「・・・・・ごめん・・・・なさい・・・・。」
嗚咽とともに聞こえる謝罪の言葉は。
どれほどを傷つけているのか、痛感させられる。
「・・・・。」
泣いている顔を上げさせて、唇を塞ぐ。
これ以上泣き声も謝罪の言葉も聞きたくない。
俺が聞きたいのは。
俺を求める声だけ。
どうしようもないほどの独占欲と嫉妬心。
コントロールが効かない。
ブレーキが壊れてる。
このままじゃ、俺はいつかを誘拐して。
自分だけが知っている場所にを監禁しそうだ。
だから。
俺はに言った。
「もうあんたはいらないから。」
なるべく冷たく、なるべく突き放すように。
の顔はみるみる泣き顔になって、俯いて。
でも、次に顔を上げたとき。
「元気でね。」
は笑っていた。
手の中の銀色のピアスを見つめ始めて、どれだけの時間が過ぎたのか。
外は夕暮れに染まっていた。
「珍しく感傷に浸っちゃったかな・・・・。」
それでも、まだピアスから視線を反らすことができない。
「・・・・・元気に・・・してるかな。」
自分から別れを切り出しておいて。
いまだにこんなにも恋焦がれてなんて。
に言ったらなんて言うかな?
私の日常。
それは朝8時に出勤して、整理して。
9時に開館して、あとはカウンターに座って。
滅多に人の来ないこの場所で読書を楽しむ。
平凡な毎日。
昔は違った。
同じ毎日だったとしても、このあとに楽しみがあったから。
今日はどっちの部屋でご飯を食べよう、とか。
何を作ろうかな、とか。
楽しいことの毎日だったのに。
「もうあんたはいらないから。」
そう言われたとき。
今までの自分は彼にとってなんだったんだろうって。
いらない・・・の言葉で片付けられてしまうほど、ちっぽけな存在だったんだって。
思い知らされた。
あんなに笑ったのに。
あんなに幸せだったのに。
「・・・・何考えてんだか・・・・。」
小さく呟いて、自分に苦笑。
そっと耳に触れた。
彼がくれた唯一のプレゼント。
イベント事に疎い彼が、ある日突然くれた銀色のピアス。
別れを告げられた日から身につけることはなかったのに。
今朝、久しぶりにつけてみた。
私の一番のお気に入り。
だけど、それは1つしかなくて。
片方は・・・・・どこかへなくしてしまった。
大切にしてたのに。
同時に失くしちゃったのかもしれない。
彼の心。
あの日。
同じ図書館に勤務する若い上司が私の忘れ物を届けてくれた。
その人には私が働き始めてから色々と相談に乗ってくれた人で。
いつも恋人にべったりだった私としては。
その人に最近の幸せぶりを聞いて欲しくて。
お茶を出した。
「で、あの男は誰?」
偶然にも家から帰るその人を見た彼は。
冷たい目で、冷たい口調で聞いてきた。
いくら上司でそういう疑いの関係ではないと説明しても。
彼は疑いの眼をやめてくれず。
つい、小さく不満を呟いてしまった。
「・・・・・カカシだって・・・・・。」
任務で私以外の女を抱くじゃない。
例え任務だとしても、私以外をその腕に抱きしめるじゃない。
分かってる。
任務なんだからしょうがないって。
彼は忍で、里を守っていて、任務のときに心はないって。
だけど・・・。
頭では理解していても、心がついていかなかった。
所詮、一般人と忍は。
全ての考え方が違うのかもしれない。
「さん、返却されてきた本、戻してくれる?」
「あ、はい。」
呼ばれて立ち上がった。
借りられる本が少ない分、返却されるのも少なくて。
1週間にまとめて本を棚に戻していく。
「・・・・っと・・・・・重いな・・・・。」
たまりにたまった本はそれなりに量がある。
持てるだけの本を抱えて、慣れた館内を歩き始める。
さりげなくこの作業が好き。
意外なところにまだ読んだことのない本が眠っていたりするから。
1冊ずつ、丁寧に本棚にしまっていく。
「すいません。」
「あ、はい・・・・。」
声をかけられて、振り返れば。
「・・・・・・カカシ。」
昔私に幸せをくれた人が立っていた。
「久しぶり。元気だった?」
「・・・え・・・・・うん・・・ってぇっ!!」
いきなりのことにかなり動揺して私は。
抱えていた本を落としそうになった。
だけど、カカシが支えてくれて、落とさずにすんだ。
「大丈夫?」
「あ、うん・・・・・。」
カカシは私の手から本を奪って歩き始めた。
その背中を数歩後ろから追う。
少し、痩せた?
ちゃんとご飯食べてるの?
・・・・何考えてるんだろ。
もう私には関係ないのに。
「ちゃんと飯、食ってるよ。」
「・・・・え?」
「視線、感じたから。のことだから心配してくれたんでしょ?」
カカシの笑った片目が見えた。
「任務のときは・・・・そうもいかないけど。
休みのときは出来る限り食べるようにはしてる。」
「・・・・・そう。」
「それより、のほうが痩せたんじゃない?」
「・・・そうかな。」
「俺の目は確かでしょ。」
カカシに言われた通り。
カカシと別れたあの日から、まともにご飯を食べれない。
一人で食べるご飯ほど不味いものはないから。
そんなことを話していたら、カカシの手から本が消えた。
話しながら歩いているうちに、全部棚に戻しちゃったみたい。
私だったら1時間はかかるのに。
「・・・・ありがと。」
「どういたしまして。ついでにさ。」
カカシがポーチから何かを出した。
「これ、返却したいんだけど。」
「・・・・・・これって・・・。」
オレンジ色のカカシの愛読書。
これを返却?
「違う違う。これでしょ。」
苦笑して、中からしおりを取り出した。
それについてる、銀色のもの。
「・・・・今日、掃除してたら出てきたんだ。
あのとき・・・・探してたでしょ?」
「・・・・・カカシの部屋にあったんだ・・・。」
失くしてしまった銀色のピアス。
「これを届けに?」
「ん・・・俺には不要なものだからね。」
不要なもの。
「俺が持ってても仕方ないでしょ?」
笑うカカシに、私はちゃんと笑い返せてるのかな。
手の中のピアスと、別れた日の自分が重なって見える。
共通点は―――カカシに不要なモノ。
「カカシにとって・・・・不要なものでも・・・・私にとっては必要なものだわ。」
「だと思ったから、届けに来たんでしょ。」
喜んでもらえてよかった・・・と笑った彼に。
何を言っても、もう無駄なの?
「用事も終わったし。帰るよ。」
「・・・・・そう。」
「仕事、頑張ってね。」
「・・・・・うん。」
「じゃ・・・・。」
「・・・・・・・・ばいばい。」
背中を見送りながら。
溢れそうになる涙をこらえる。
もう、私も、私の名残も。
カカシには不要なもので。
この先、求められることはない。
それでも。
捨てられるこっちとしてみれば。
求める心は止められない。
「・・・・また・・・捨てるのね。」
小さく呟いたのに。
カカシは振り返って。
私を見ている。
困らせたくなくて、笑って見せた。
だけど。
我慢できなくなった涙は心に反して流れる。
カカシが、1歩、こっちへ歩いてきた。
1歩、また1歩。
それはどんどん大またになって。
最後は走ってきて。
「・・・・なんて顔・・・してるの・・・・。」
私の体ごと、抱きしめた。
「カカシには分からない・・・・。捨てられる側の気持ちなんて・・・・。」
「・・・・・捨ててなんか・・・。」
「あなたは言ったでしょ。
私はいらないって・・・・・。」
「・・・・・・。」
「このピアスだって・・・・あなたにはいらないものなんでしょ?
私と、私との思い出は・・・・あなたにはいらないものばっかなんだね・・・。」
自分に言い聞かせる。
私の存在自体、もうカカシに必要ないんだ・・・って。
「・・・本当にいらないものだったら・・・優しくなんてしないよ。」
「嘘ばっかり。あなたは本当は優しい人よ。」
「本当にいらないものだったら・・・・届けになんか来ない。
本当は大切なものだから・・・どうしていいか困ってる。」
カカシの腕に力が入った。
「大切にしたいから・・・。
自分の腕で傷つけてしまう前に・・・傷つけなくてすむ場所に返したんだ。」
顔を上げれば。
誰よりも傷ついてたのはカカシなんだと、理解できた。
「を傷つけたくなかったから・・・手放した。
ピアスだって・・・・持ち続けられるほど俺は強くないから。
との想い出を思い出してばっかになるから。
・・・・・・手元には置いておけなかった。」
カカシは優しい人。
自分が傷つくことよりも。
他の誰かが傷つくことを嫌がる人。
「俺は・・・・との思い出を手放す気はないよ?」
「・・・・・・思い出・・・・だけ?」
「だって・・・・今はまだ俺のモノじゃないし・・・ね。」
照れたように、拗ねたように。
視線を泳がせるその仕草は。
もしかしたら、初めて見たカカシの素顔のような気がした。
「好きよ、カカシ。」
「・・・・・?」
「誰よりも、昔から。
あの日から気持ちは何も変わっていない。」
「・・・・じゃあ・・・?」
視線の合ったカカシの顔に触れて。
頬にキスした。
それが私の答え。
「離れていた分を埋めるために・・・・。
今日はを借りてっていいかな・・・・?」
「先着1名様限定ですから。」
「ついでに・・・返却期間は無期限でお願いします。」
くすくす笑った私たちは。
誰もいない図書館で触れるだけのキスをした。
はい、カカシの37000Hitミホ様のリクでぇす。
「カカシが照れる甘切系」ってことでした。
カカシ、照れたの一部分だし。
甘いのか、切ないのか、ワカラナイし。
ごめんなさい。