水面に写る自分を見て、満足する。
そこには子犬がいるから。



これでカカシにばれない。






























ここにいるよ














































私は子犬の姿のまま、里の中を歩いていた。
「かわいい子犬ねぇ。」
「おいでぇ。」
なぁんて声はかけられるけど、誰も私だとは気付かない。
自分の変化の術の完成度に満足する。








なぜ私がこんな格好しているのかと言うと。



事の発端はちょうどお昼のとき。
待機所で紅とのんびりしていたときだった。
ドアが開いて、カカシが入ってきた。
「カカシ、また遅刻だよ。」
「んー・・・気にしない♪気にしない♪」
いつもの飄々としたまま、私の隣に座った。





トクン・・・・。





胸が高鳴る。
「ねぇ、今度の上忍合格祝いしない?」
紅が提案してくれた。
「そういえばまだやってなかったな。」
いつの間にかアスマもいた。


私は最近上忍になったばかり。
本来なら先輩である上忍の方々に敬語を使わないといけないんだけど。



がねぇ・・・なんで上忍になれたのか不思議だよ。」
カカシが私の頭をぽんぽんとたたいた。
「カカシ、うっさいよ!」
「昔から見てるけど、って本当に忍術苦手だもんねぇ。」



私とカカシは幼馴染。
いつも私はカカシの後ろを追いかけてた。
だから、自然と紅やアスマ、ハヤテ君やゲンマさんとも普通に話せる。




「なにより変化の術が苦手だもんねぇ。」
「・・・今は上達してるもん。」
「どうだかねぇ。」




変化の術の超初級の基本忍術。
私はなぜかこれが苦手でならない。



「カカシの言ってるのは昔のことでしょ?
 確かには変化の術は苦手だけど、昔よりは上達してるわよ?」
「まぁ、昔は見れたもんじゃないからなぁ・・・。」
「アスマ・・・・それって・・・ひどい・・・。」
「わりぃ、つい本音が出ちまった。」
「もっとタチ悪いって!!」



必死に練習して、修行して。
上忍となるための術は一通り覚えた。
その練習に付き合ってくれたのは、誰でもない、カカシなのに。




「ま、任務中にヘマしないように気をつけなさいね。」
「分かってるよぉ。」
「はいはい。」




私が上忍になれたこと。
誰よりも喜んでくれると思っていたのに。





なぜかカカシは・・・・冷たくなった。

















きっと私のこと、まだまだ子供だと思ってるんだ。


だったら見返してやればいい。


変化の術で。

















で、子犬に変化した私。
最初は人間に変化しようと思った。
だけど、他人になる・・・なりきるのって難しい。
自分ではない誰かになるわけで。
少しでも自分を出してはいけない。
話し方、くせ、会話の内容。


だったら話せない動物になればいい。

だから、犬にしてみた。



術は成功。
私は誰が見ても、犬。


・・・・子犬なのは・・・・予想外だったけど・・・。


よし!この姿をカカシに見せて、目の前で術を解いてやろう。



















・・・・里って・・・・こんなに広かったっけ?


どんなに歩いても歩いても、目的地に近づかない。



おっかしーなー・・・・。







ちょうど木陰になっている場所にうずくまる。









ねぇ・・・・カカシ。

私、頑張ったんだよ?

カカシに追いつけるために。

カカシの見ているモノを、私も見たい。

カカシの感じたことを、私も感じたい。




だから、頑張ってきたの。


・・・・どうして・・・・分かってくれないの?

















「くぅ〜〜〜ん・・・・・(カカシのバカ・・・)」
声に出したところで、言葉になるわけがない。
あーあ・・・。












「なーにしてんの。」









はるか頭上から声がした。
見上げれば・・・・・。






「お前、野良か?」






カカシだった。





「なんか・・・疲れるっぽいねぇ。」
頭をかきながら、何かを考えてる。



これは好都合!
わざわざカカシを探し回る手間が省けた!!
よしっ!ここで術を解いてやるっ!!




「キャンキャンッ!キャンッ!」




・・・・・・・・・え?

術が・・・・解けない?

なんで・・・?

なんで・・・?



どぉぉぉぉしてぇぇぇぇぇぇぇぇっっっっ!!!!!






あまりのパニックに震えが走った。




「寒いの?おいで・・・。」
カカシが腕を差し伸べて・・・。



体がふわっと浮いた。




「仕方ないからしばらく家においで。このままじゃ凍死するよ。」
カカシの手が私の頭をぽんぽんとやった。




そのままカカシに抱き上げられながら、私はカカシの家に向かった。












見慣れたアパート。
階段を上って見慣れた廊下。



昔、よく遊びにきたよなぁ・・・。




「さ、ついたぞ。」


カカシは玄関のドアをあけた。
中は私の部屋と違う匂いがした。


「お前はそのままお風呂に直行ね。」


え・・・?
お風呂・・・?



ちょっ・・・ちょっと待ってよ!!
カカシの前でお風呂なんか入れ・・・って、今の私は犬か。
なら、別にいっか、犬なんだし。



カカシにされるがままにお湯をかぶる。


さっきまで北風の吹く外にいたからかな。
お風呂がすごく気持ちいい。



「いい子だな、お前は。」



カカシの優しい笑顔。


しばらく見ていない笑顔。



体の汚れを落として、よく拭いてもらって。
初めて部屋の中で自由にしてくれた。


「あんまり悪戯しないでね?」
「キャン!(はぁい)」


私の返事が分かったのか、カカシはにっこり笑った。






それにしても・・・。




カカシの部屋。
ずっと来ていなかったな。

かれこれ3年ぶり?


ある日突然、私を部屋に上げなくなった。
ショックだったなぁ、あれは。





3年ぶりの部屋は私の知らない部屋になっていた。




ちょっと探索してみよっかな♪



あ、ベッドの下にエッチな本を発見!!
普段堂々とイチャ・パラ読んでるくせに、なぜ隠すのさ。



ふんふん、掃除はまめにしてるみたい。
埃がないもん。



あー!!
この本、私がずっと前に貸したヤツだ!!
てっきり失くしたと思ってたのに、カカシに貸しっぱなしだったんだ!!







ふいに視線を感じて振り返る。




ドキン・・・。




カカシが私を見てる。







・・・・・・なんで?








「そんなに部屋の中探しても何もないでしょ。
 こっちにおいで。ご飯だよ。」

手招きしてる。
言われた通りに言ってみる。


「はい、ご飯だよ。」





ガー・・・・ン。




「忍犬に評判いいドッグフードだよ。」




・・・カカシさん・・・・これは食べれないよ・・・。

こんな姿だけど・・・・私・・・人間だから・・・。




「ほら、食べて?」




ごめんなさい・・・・無理ですから・・・。




「くぅ〜〜〜ん・・・・(無理だよぉ)」














結局、私はご飯を食べずにいた(当たり前だ!!)。



お腹は鳴ってるのに・・・。




と、どこからかおいしそうな匂いがしてきた。
・・・これは・・・・。




「ん、上出来♪」
カカシがおいしそうに味噌汁を味見してる。



「キャンキャンっ!!キャンキャンっ!!(私にもちょうだい!!)」



カカシに足に飛びつく。



「え?これがいいの?」


「キャンっ!(イエッサー!!)」


「仕方ないねぇ。」



カカシは浅いお皿にご飯を盛り、その上から味噌汁をかけてくれた。
しかも、息を吹きかけて冷ましてくれた。



「熱いから気をつけてね。」



床に置かれたお皿に一気に飛び掛る。

あぁ・・・おいしいよぉ・・・・。












カカシの犬好きは知ってたけど・・・。

ここまでだとは思ってなかったよ・・・。



帰ってきて私をお風呂に入れて一緒にご飯を食べて(味噌汁の他に秋刀魚も分けてもらった)。
それから数時間たつけど・・・。
ずっと私を抱っこしてたんだよねぇ・・・。


まぁ、私は楽でいいんだけど・・・さ。


「さ、そろそろ寝ようか。」


カカシはにっこり笑い、私を抱き上げる。
そのままベッドの中にもぐりこんだ。


「明日にはお前の飼い主、探してあげるからね。」


そっと頭を撫でた。


「ゆっくり寝なさいね。」


微笑んだ。












痛いよ。

悲しいよ。



ねぇ、どうして?


昔はよく見せてくれてたその笑顔。

どうして最近は私に向けてくれないの?










安らかに眠るカカシ。

そっとキス(唇を舐める)をして、私はベッドから降りた。







カカシは犬が好き。
よく知ってる。




大好きな犬には向けられる笑顔。
私には見せてくれなくなった。




私・・・・嫌われてるんだ。
















だったら、もうここにいちゃいけない。


私の知らないカカシを見ちゃうから。
もっと、もっと・・・。


カカシのこと・・・・・好きになっちゃうから。



















やっとの思いで私は最初の湖畔の来た。


水面にうつるのは子犬の私。





このまま・・・・犬でいようかな。
そうすれば、カカシはあの笑顔を向けてくれる。




でも、それって逃げてるよね。

私は・・・・私なんだから。

私は私以外の何者でもないんだから。




カカシは悲しまなくても、きっと、他の仲間が心配する。







カカシ、カカシ、カカシ、カカシ・・・。









「なーにしてるの。」

振り向くと、そこにはカカシがいた。

「隣にいないから心配しちゃったよ。」

おいで、と手をさし伸ばしてくれた。
だけど、私は動かなかった。


・・・・私が犬だから、心配してくれてるんでしょ?



「・・・お前、似てるね。」



動かない私になぜか微笑み、カカシは私の隣に座った。



「俺の・・・大切な人に。」



・・・・知らなかった。
カカシに・・・・大切な人がいたなんて・・・。



「・・・っても、片思いなんだけどね。」



・・・・聞きたくないよ・・・・・そんなの。



「ついに今日、怒らせちゃったし。」


・・・私になんか構ってないで・・・仲直りしに行けばいいじゃん。


「仲直りしようと探してたら・・・・お前を見つけたんだよね。」


・・・・・・偶然って怖いね。

私はカカシを探して、カカシは大切な人を探して。



「お前の気配が・・・・あいつにそっくりだったから。」


・・・・・はい?
私、これでも上忍よ?

私の気配を真似できる人なんて・・・・。



・・・・・え?


「あいつの気配を追ってたら・・・。
 そこにはお前がうずくまってるんだもん。
 びっくりするでしょ。」



もしかして・・・・これって・・・。



・・・・まだ怒ってるのかなぁ・・・・。」



・・・・・・・私?



「まだアパートに戻ってきてないみたいだし・・・。
 どこで何してるんだか・・・。
 こっちは心配してるってのに・・・・。」



カカシが空を見上げた。



ねぇ・・・カカシが探してたのって・・・・私なの?





「俺ね、こう見えて小心者なのよ。
 ずっと昔からのこと好きなのに、いまだに告白もできずにいるの。」


くくく・・・とカカシが笑った。


「こんな俺だから・・・・。
 口に出せないなら態度で・・・って。
 あいつの望むことはなんでもしてあげたかった。
 だから、修行にもいくらでも付き合った。
 は上忍になりたがってたから。」




うん・・・・カカシはいっぱい修行に付き合ってくれた。
いっぱいいっぱい・・・・。



「晴れてが上忍になれたときは・・・嬉しかった。
 自分のことのように・・・・本当に嬉しかった。」


嘘だ・・・・。
そんな素振り、1回も・・・・。


「だけど・・・ね。
 そこで気付いちゃったんだよね。
 上忍になるってことは・・・・どういうことかって・・・。」



気付いた?何に?



「上忍になった以上・・・・。
 俺と同じ任務が回ってくる。
 俺と同じ経験をしなきゃならない。
 俺と同じ思いをしなきゃならない。
 俺と同じように・・・・明日があるか分からない・・・。」



・・・・私はそれを求めていたの。
カカシの見ているモノ、経験したコト、思っているコトを知りたくて。



「もしかしたら・・・・。
 俺はが死に近づく手助けをしてしまったんじゃないか・・・って。」



・・・・・そんな風に思ってたんだ。



「そしたらさ、どう接していいのか分からなくなっちゃって・・・。
 冷たい態度しちゃってたんだよね。
 で、ついに今日は怒らせちゃったし・・・。
 あいつ、怒ると何しでかすか分からないからなぁ・・・・。」



しでかしちゃったよ・・・。
私、犬になっちゃったよ。



「怪我とか・・・・してなきゃいいけど・・・・。」



怪我はしてないよ。
だって、カカシが見つけてくれたから。
カカシが私の気配を探してくれたから。



「・・・・心配・・・なんだよね。」



ごめん。

ごめん、カカシ。




私、カカシのこと何も知らなかった。




好奇心だけで上忍、目指してた。

カカシがこんなに私のこと考えてくれてたなんて・・・。




言葉が、涙が、出ない。




「私のこと、心配してくれてありがとう」って言いたい。

「心配かけちゃってごめんなさい」って泣きたい。



どうすれば・・・・伝えられるの?


















途端に、全身の力が抜けていく。

「どうした?」

頑張って立とうとするけど、どんどん力が抜けていく。


「具合悪いのか?!」


脱力しすぎて・・・・意識が飛びそうだ。




カカシを見上げる。



とても心配そうな顔をしてる。






ごめん・・・ごめんね・・・・カカシ。




犬になっても・・・私はカカシに迷惑かけてる。




ごめん・・・・・ね・・・・・・。
















































暖かい。




目を開けた。
そこにはさっきのカカシの部屋だった。
「・・・・起きた?」
「・・・・カカシ・・・。」
呟き、はっと気付く。


言葉が出る!!
犬語じゃない!!


がばっと体を起こして自分の体をチェックする。
「戻ってる!!」
「はい、そうね。」
うれしくてカカシを見れば・・・・。
「・・・・・怒ってる?」
「そりゃ怒るでしょ。」
「・・・・・だよねぇ・・・。」
たはは・・・と冷や汗。
「どうして犬なんかになってたの?」
やっぱりそこからきたか。
「・・・・変化の術が完ぺきなとこ・・・見せたくて・・・。」
上目遣いに見ると、カカシがそれはそれは盛大なため息をついた。
「・・・あのねぇ・・・。
 動物に変化するときは必ずパートナーが必要だって、習わなかった?」
「・・・・なんで?」
「印が結べないからでしょ。
 変化の術を解くにも印を結ばないと解けないでしょ?」




「・・・・・・・あ。」



そうだった。

人に変化するときは自分で術を解くための印が結べるけど、
動物に変化するときは、その変化の術を解いてくれる人が必要だったんだ。



「ってことは、カカシが解いてくれたの?」
「・・・・前に任務で長時間変化してたヤツがいてね。
 そのときの症状と・・・犬の症状が同じだったからもしかして・・・ってね。」
「・・・・ありがと。」
「変化してる最中ずっとチャクラを使ってるんだ。
 チャクラ切れおこして当然でしょ。」



あー・・・あの脱力感はチャクラ切れだったんだぁ・・・。



「まったく・・・・。
 元に戻してみればが真っ青になって気絶してるからびっくりしたよ。」
「えへへ・・・ごめん・・・。」
を探して、たどり着いたのが犬だったってのも納得。
 犬自体がだったんだから・・・・・。」



ふいに私の顔が真っ赤になった。




・・・その犬に・・・犬に変化していた私に・・・。

カカシは・・・・。





「・・・冷たくしてて・・・ごめん。」
カカシが呟いた。
「さっきも言ったけど・・・。
 が上忍になれたことは・・・・本当にうれしい。
 だけど、その分、危険な任務が回ってくる。
 それを考えると・・・どうしても素直に・・・言えなかった。」
視線を反らして呟くカカシは・・・。
何かに怯え、何かに恐怖し・・・・泣きそうだった。
「・・・・私、カカシと一緒がいいの。」
「・・・・・?」
「カカシの見たもの、感じたこと、思ったこと、全部。
 カカシのいる世界に、私も行きたかったの。
 だから・・・あんなに修行した。
 それに付き合ってくれたのはカカシなんだから・・・喜んでよ。」
「・・・・でも。」
「上忍になるって決めたのは私なんだから。
 カカシが私の願いを叶えてくれたんだよ?」
戸惑うカカシに教えてあげたい。




どれだけ私が上忍になりたかったのか。
上忍合格通知がきたとき、どれだけ私がうれしかったのか。



「この先、何があっても・・・・私は上忍になれたことを後悔したりしないよ。」



「・・・・は・・・・強いな。」



カカシが微笑んだ。


私も微笑んだ。


「私は強いよ?だって・・・・。」


今度は私が全てを話す番。



「大好きなカカシを守ってあげたいんだもん。」



驚いてるカカシ。



里一番の忍に言うセリフじゃないけど。

カカシを傷つける全てのモノから・・・守ってあげたい。




「・・・・ってヤツは・・・・。」




くすくす笑いながら、カカシが私を抱きしめた。



「じゃあ・・・・守ってよ。」

「言われなくても、ちゃんと守るよ?どんなに敵にだって・・・・。」

「違うって。」

「じゃあ、何から?」

「・・・・独りから・・・・・。」




唇が重なった。





「上忍、合格おめでとう。」













守ってあげる。



独りという孤独から。



私がいる限り、ずっと。



新米上忍の最初の任務。



カカシの傍にずっといること・・・だね。














はい、カカシ短編でした。
お年玉企画、如月様のリクです。
カカシで内容はお任せ・・・ということでした。
今年は戌年!!
なので、戌を出したくて・・・。

こんなんでいかがですか?如月様!!


如月様のみお持ち帰りオッケーです。





BGMは唄い鳥よりお借りしました。


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