梅雨は嫌い。
思い出させるから。
愛しすぎたあの人を思い出させるから。
雨は好き。
全てを流してくれるから。
悲しみも、淋しさも、切なさも、苦しさも。
まるであの人に抱かれてる気分になれる。
梅雨
壊れてしまった関係。
修復のできない関係。
でも、それでいいと思う。
カカシにあんな笑顔をさせられるのは・・・。
カカシが大切にしている人だけ。
それが私ではなかったということ。
最初からダメだったんだよ。
好きになったらそれまで。
何もないから気兼ねなく抱きあえた。
何かがあれば、それは高い壁となり、深い溝になる。
私は溝にどっぷりはまってしまった。
だからもう隣にはいけない。
隣にいてはいけなかった。
「最近、働きすぎじゃないか?」
「気にするな。任務に支障は出ない。」
同行する暗部に手短に答え、仮面を付け直す。
目を閉じ、深呼吸をして、切ったばかりの短い髪に触れる。
さぁ、任務だ。
ゆっくりと目を開け、感情を殺す。
雨の音が聞こえる。
シトシト、シトシト、シトシト・・・。
あー・・・そういえば、テレビで梅雨入りだって言ってたっけ・・・。
朝から気分が滅入ってくる・・・。
ベッドから体を起こした私は・・・。
静かに街を濡らす雨を・・・。
じっと睨んだ。
忘れかけてた思い出。
この時期になると思い出す。
・・・・ううん。
忘れようとしていた自分。
この時期になるとそれを自覚する。
だから
嫌い。
あれから3年がたつ。
私は3年ぶりに森に来ていた。
3年前、カカシと一緒に来た森。
「森が歌う。」
そう言って、一緒に聞き入っていた森。
3年たった今も変わらず歌っている。
カカシが暗部を引退したと聞いた。
なんで引退したのかな・・・。
今、どこにいるのかな。
なぁんて、私が考えてどーする。
あれからすぐに引っ越して、遠方の長期の任務を希望して。
全く連絡を取れないようにしたのは自分なのに。
弱かった自分。
好きで、好きで、たまらないほど好きなのに。
自分では動かず、気付いてくれるのを待ってた。
そばにいられるだけで幸せ。
そんな言葉はウソ。
そばにいれば欲望が顔を現す。
そして、自分で壊した。
あのとき、ああしてれば・・・。
後悔だってした。
だけど、もう後の祭りで。
取り返しのつかないところまで自分で追い込んでた。
梅雨は嫌い。
思い出させるから。
愛しすぎたあの人と過ごした時間をを思い出させるから。
雨は好き。
全てを流してくれるから。
悲しみも、淋しさも、切なさも、苦しさも。
まるであの人に抱かれてる気分になれる。
そんな自分を戒めるように・・・。
「雨なんか・・・・嫌いだ。」
呟いてみた。
「雨、嫌いなの?」
背後から声がした。
「・・・・・・」
雨の音でうまく聞き取れない。
「森が歌うのに?」
「・・・・・・・・・・・。」
「俺は好きだけどね。」
「・・・・・・。」
「大切な人と会わせてくれるから。」
振り返れば。
少し離れた樹の枝の上に。
いた。
「来るの、遅いよ。」
「・・・・・・。」
「ずっと待ってたんだよ?」
少し怒ったように呟く彼。
「引越しするし、長期の任務にいっちゃうし・・・。
連絡の取り様がないなくてここで待つしかないし・・・。」
軽く枝を蹴り、私の座っている枝に飛び移った。
「・・・・髪・・・伸びたね・・・。」
ゆっくり伸びてくるその手は私の伸びた髪に触れる。
微かに震えていた。
「ずっと・・・・会いたかった。」
そのまま私の体を抱きしめた。
「・・・・ごめん・・・・。」
耳元で聞こえる震えた声。
「あのとき・・・ずっと傷つけてばかりだった・・・。
自分がどうしたいのかも・・・分からなくて・・・。
だから、終わりを告げられたとき、頭にきた。
・・・だけど・・・。」
強く抱きしめられる。
「会わなくなって・・・連絡が取れなくなって・・・そこで初めて気付かされた。
俺たちの間に何もなかったわけじゃない。
ちゃんと・・・君を必要としてたんだって・・・。
気付いたときにはもう君はいなくて・・・。」
体を離す。
「この3年・・・気が狂いそうだった。
もしかしたら、新しい恋人がいて、抱かれて、幸せを感じているのかって思ったら・・・。」
自分が自分でなくなりそうだった。」
「・・・は?」
「あの後しばらくして・・・ちゃんと断ったよ。
俺には・・・大切な人がいる・・・って。」
にっこりと微笑む・・・・カカシ。
「それが・・・・だってことも・・・ね。」
涙が・・・・零れる。
「初めて・・・。」
「うん?」
「初めて・・・名前・・・・。」
「うん・・・・ごめん。
今まで照れくさくて・・・呼べなかった・・・・。
それが余計・・・・を傷つけてたんだよね・・・・。
本当にごめん。」
カカシの言葉に私は頭を振る。
「もう・・・いやなんだ。」
カカシはそっと私の涙を拭う。
「と・・・・何もない関係は・・・・・。」
カカシの目には私が映ってる。
「付き合おう?俺たち・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「正々堂々とみんなの前で手を繋いで、
ちゃんと名前で呼び合って、
3年間の空白を一緒に埋めていこう?」
「・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・それとも・・・大切な人・・・いる?」
「・・・・・・・・・カカシより・・・・大切な人なんか・・・できないよ・・・。」
「じゃあ・・・・。」
「・・・・ん・・・・・。」
小さく頷く私に向けられた笑顔は。
幸せそうで、慈しみで溢れてて・・・・。
夢にまで見たカカシの最高の笑顔。
やっと・・・・私に向けてくれた。
森が歌う。
私たちのはるか頭上で。
枝に座るカカシに抱きしめられ、私は目を閉じる。
「すごいね。」
「うん・・・・。」
「体が冷たい。寒い?」
「んー・・・ちょっと。だけど、カカシがいるから大丈夫。」
「そういうわけにはいかないでしょ。帰ろう。風邪引く。」
カカシが立ち上がって私を立たす。
「全身びしょ濡れ。」
お互いの格好を見て私が噴出す。
「帰ったらお風呂に入ろう。」
「洗ってくれるの?」
「が望めば。」
カカシの笑顔。
これからは堂々と手を繋ごう。
何も恥ずかしがることもない。
何も気にすることはない。
お互いがお互いを必要としていれば。
それだけで、もう十分関係があるんだから。

はい、カカシ長編「梅雨」最終輪です。
やっぱハッピーエンドでしょぉ♪
「あのとき・・・」
と、後悔することってありますよね。
人間、そんなモンですよ。(お前が言うなって?
でも、それを次に生かせればいいんです。
さて、長編も終わってしまった・・・。
次は何を書こうかな?
BGMはDissonance様よりお借りしました。