彼が隣にいてくれれば、それだけでよかったのに。










どうして欲を出してしまったんだろう。











どうして、今の幸せだけに満足できなかったんだろう。

















































月を愛した私















































1日の仕事を終えた私は机の上を整理した。
「よしっ。帰ろうっと!」
まだ仕事している同僚に挨拶をして、会社を出た。
冷たい風が体から熱を奪う。
すでに暗くなった空。
見上げれば三日月がぽっかり浮かんでいる。
自然と顔がほころぶ。








年下の大好きな人を思い出すから。









「会いたいなぁ・・・。」
思い出したら会いたくなる。
それだけ好きだということだろうか。
「行っちゃおうかなぁ・・・・怒られるかなぁ・・・でも会いたいしなぁ・・・。」
一人ブツブツ呟きながら足を進める。










































さん!」
アカデミーの門に寄りかかっている私を誰かが呼んだ。
誰かが・・・って、振り返らなくても声で分かってるんだけどね。
「あ、ハヤテ君。」
駆け寄ってくるハヤテ君に笑顔を向ける。
「こんな時間に何してるんですか!」
「んー・・・なんとなくハヤテ君に会いたくなっちゃって・・・。」
「あなたは女性なんです。こんな時間に一人で・・・。」
ゴボゴホッと咳をしながら眉間に皺を寄せた。
「こんな時間・・・って、まだ8時だし・・・。」
「8時は立派な夜です。」
「・・・はい・・・・。」
ピシャリッ!と言われて私は体を小さくした。
「送ります。」
「え?大丈夫だよ。それにまだ仕事中でしょ?一人で帰れるよ。」
「仕事中と分かってるのならこういうことはしないでください。
 第一、ここであなたを一人にしたらそれこそ何時までここに立っているか分かりませんから。」
あ、そーゆーことね・・・。
さすがハヤテ君、よく分かってる。
「さ、行きますよ。」
ちょっと怒ってるハヤテ君の横顔は怖い。
歩き出したハヤテ君の数歩後ろを私が歩き出した。














怒らせちゃった・・・。
ただ、会いたかっただけなのに・・・。
別に会えなくてもそれはそれでよかったし・・・。












嫌われちゃう・・・かな・・・。










「寒くないですか?」
しゅん・・・となっている私に問いかけられた言葉に顔を上げると・・・。
優しい目で手を差し出しているハヤテ君がいた。
「すんごく寒い!!」
「だったら待ってないで下さい。」
大げさに言い、差し出されてる手に抱きついた。



























私とハヤテ君は1ヶ月前から付き合うこととなった。
一般人の私が特別上忍のハヤテ君と知り合うきっかけ。
それは・・・・居酒屋でのこと。
仕事で大きなミスをした私は飲み捲くり、荒れていて・・・。
偶然、隣の席だった忍のグループに絡み始めて、
その中のハヤテ君に特に絡んでいたらしい(途中から記憶にない)。
ベロベロの私に付き合いきれなくなった同僚たちは、
忍の方々に私を任せてさっさと帰り、
私はハヤテ君に送ってもらった(ここら辺から記憶がある)。













今の会社に入って早8年。
若い新人の女の子たちからは既に『お局様』と呼ばれ、
8年もいるもんだから責任のある立場でそれを楽しいとも感じてしまい、
3年前に3年付き合った彼氏に振られ誰も慰めてくれない。















「どぉせこんな私には女の魅力なんて全くないのよ。」
「そうですか?」
「だぁぁぁってさぁぁ?会社の男共は新人のキャピキャピが好きだしさぁ。」
「人、それぞれですよ。」
「いぃぃや、男はみんな若い女がいいのよ。
 26にもなった私には男が寄り付かないのさ。」
「そうですかね。十分さんは魅力的だと思いますよ?」
「だったら!あんたが私と付き合ってよ。」
「はい?」
「私に魅力があるっつーなら付き合ってみなさいよ。」
「・・・・・。」
「ほぉら、やっぱイヤじゃん。
 そりゃそーだ。あんた、23でしょ?5つも年上じゃぁねぇ。」
「いいですよ。」
「んあ?」
「あなたとお付き合いいたします。」
「マジデ?」
「マジです。」
最初は冗談だと思っていた。
だけど、次の日・・・・。
「こんにちわ。」
二日酔いで立ち上がるのも悲惨な私の家にハヤテ君はやってきた。
しかも、お昼頃の見事な晴天を背景に。
「こんなことだろぉと思いました。」
ため息混じりにそう言うと、彼は私を寝かせ看病してくれた。
























そんなことがありまして。
現在、私とハヤテ君はお付き合いしているのです。
休日を教え、それがハヤテ君の休日と重なると必ず会いに来てくれた。
私は最初、ただ申し分けなくて。
でも、一人でいることの淋しさに耐えらない程弱っていて。
しばらくこのままでいさせてもらうことにした。
んで、また前のように元気になったら、
「ありがとう。」
と、彼を解放してあげようと思ってた。



























だけど・・・。



彼を知っていくうちに。



どんどん彼の魅力に気付いてしまい。



今はもうどうしようもないほど。





ハヤテ君が好き。



























「ねぇ?」
「はい?」
手を繋いだまま隣を歩くハヤテ君を見上げる。
「なんで私が門のところで待ってるって分かったの?」
「私を誰だと思ってるんですか?」
「忍。」
「だったら、気配で分かりますよ。」
「そうなの?」
「特にあなたのように騒がしい人の気配は特に・・・。」
「悪かったわね。騒がしくて。」
ぷうっと頬を膨らます。
「だから、どんなに遠くにいても、すぐ見つけられます。」
振ってきたハヤテ君の笑顔に惨敗。
これじゃあ、どっちが年上か分からない。


















家まで送ってくれたハヤテ君。
お茶でも・・・と言うと、仕事中なので、と帰ってしまった。
彼の背中を見ながら、不安に思う。
















ワタシノコト、好キ・・・?








ドウシテ、キス、シテクレナイノ?



















付き合って1ヶ月なのに、まだキスすらしていない。
聞きたいけど、聞けない。
だって、あんな付き合い方したワケだし。
「はぁ・・・。」
闇に消えた彼の代わりに空を見上げる。












きれいな三日月。













「ねぇ、どうなの?」
呟いてみた言葉に返事はなかった。
















































さぁん、お疲れ様でぇす。」
「お疲れ様。」
帰っていく新人を横目に私は目の前の資料の山とにらめっこ。
「ご、ごめんなさい・・・。」
「いいのよ。誰だってミスはするの。」
「で、でも・・・。」
今にも泣きそうな顔で隣に座っている新人の女の子。
明日からの連休の後にある会議で使う資料を間違えてシュレッダーにかけてしまったという。
その資料をまとめたのは私で。
当然、作り直すのは私。
「もう遅いから帰りなさい。」
「で、でも・・・・。」
「せっかくの休み前なんだから。
 さっきの子たちと飲みに行く約束、してたんでしょ?」
「はい・・・・。」
「部下のミスは私のミス。
 だから、後は私がやつておくから帰りなさい。」
「すいませんでした!!」
「でも、今度はシュレッダーする前にちゃんと確認するのよ?」
「はい・・・じゃ・・・・。」
深く頭を下げた新人はフロアを飛び出した。
「ふぅ・・・。」
彼女の背を見送り、自分の机を見てもため息。
「どぉしたもんかなぁ・・・・。」
時刻はすでに21時。
正直、私も家に帰りたい。
と、言うか、今日はハヤテ君と夕食を一緒にする約束をしている。
でも、この机を埋めている膨大な資料。
「はぁ・・・・。」
ため息をついて電話の受話器をとる。
何回かのコール。




「ハイ、こちら木の葉忍者アカデミーです。」



電話したのはハヤテ君の仕事先。
名前を言ってハヤテ君を呼び出してもらう。



「もしもし。」
「あ、ハヤテ君?」
さん?どうされました?」
「あのね、今日の約束なんだけど・・・・。」
「あ、もしかしてもう待ち合わせ場所に着いたんですか?
 すいません、まだアカデミーなので今からそちらに・・・。」
「あ、あのね!実は・・・さ、後輩がミスしちゃって・・・さ。
 休み明けに使う資料、使えなくなっちゃったから今から作り直さなきゃいけなくて。」
「それぐらい待ってますよ?」
「んー・・・どう考えても今日中に終わるかどうか・・・・。」
「お手伝いしましょうか?こう見えてデスクワークは得意です。」
「ごめぇん・・・気持ちはうれしいんだけど、この資料って社外秘だから・・・・。」
「そうですか・・・・。」
「また今度・・・・じゃ、ダメかな・・・・待たすのも悪いし・・・。」
「仕方ないですよね。分かりました。」
「ごめんねぇ、ハヤテ君・・・。」
「気になさらないで下さい。頑張ってください。」
「はぁい。」



受話器を置く。














ちくしょう。
折角のデートだったのに。
久しぶりのデートだったのに。














でも、あの子に資料整理頼んだのは私。

やっぱり、私も責任あるし。














「こうなったら前のヤツよりもっといいヤツ作ってやるんだから!!」
椅子をキッと鳴らし、机に向かった。




























なんとなく疲れ、時計を見上げると時刻は12時を過ぎていた。
「あー・・・やっと半分・・・。」
机にスペースができた。
「喉渇いたなー・・・。」
と、呟いたところで誰もお茶なんか入れてくれない。
仕方なく立ち上がった。
眠気覚ましにコーヒーが飲みたい。
同じフロアの自販機まで行くと、先客がいた。
「よっ。お疲れ。」
「あれ。お前も?」
見知った顔だった。
配属は違ったけど同期入社のだ。
「ちょっと色々あってねー・・・。」
「お前も大変だな。」
とは何回も飲みに言ってる仲で、私の事情も多少は知ってる。
だから、私があのキャピキャピに手を焼いていることも知ってる。
「まだかかるのか?」
「んー、やっと半分ってとこ。」
「半分?帰れるのか?」
「もう諦めてる。」
「じゃ、手伝ってやるよ。俺はもう終わったし。」
「え?いいの?」
ハヤテ君には悪いけど部外者だから資料を見せるわけにはいかない。
だけど、は社内の人間だ。
しかも、私より有能・・・。
「じゃあ・・・・お願いしよっかな・・・。」
「おう、任せとけ。」
は笑ってさっき買ったコーヒーを私に投げてよこした。













































「あー・・・やっと終わった・・・・。」
「ありがとぉ。助かったよぉ。」
のお陰でなんとか終わった。
「今度は捨てられるなよ?」
「分かってる!今度は絶対捨てられないようにする!!」
たった今完成した資料をクリアファイルに挟んで机の中にしまい、鍵をかける。
時間は深夜2時。
あの残りの資料が2時間で終わったのは奇跡に近い。
「よしっ!帰るかっ!」
「あ、お礼に奢るよ。夕飯、まだでしょ?」
「まじ?助かるぜ。給料日前で金欠なんだ。」
「私も給料日前だから、その辺配慮してね?」
「分かってるって。」
私たちは戸締りをして、会社を後にした。













































「へぇ・・・・お前、忍と付き合ってんの?」
「そぉだよぉ。」
「んじゃ、色々心配だろ。」
私たちは昔、行きつけにしていた居酒屋に来ていた。
それなりにアルコールも進み、いい感じで酔っている。
相手はだし、だからか、今まで誰にも言わなかったハヤテ君のことを話した。
「まぁね。だけど、ハヤテ君は強いもん。」
「あのはたけ カカシ並みに?」
「彼は上忍でしょ?ハヤテ君は特別上忍だよ。」
「ってことははたけ カカシより弱いんだろ?」
「そういうこと言う、嫌い。」
目の前のカクテルを一気に飲み干した。
「本当はかなり心配。」
「そらみろ。」
「他にもいろいろとあるし・・・・。」
「なんだよ。」
「んー・・・実はね。」
にハヤテ君と付き合うまでの過程と現在のことを話した。
「お前らしいっつーか・・・。」
「何も言わないで!!そういう付き合い方をしたことはすごく後悔してる。
 こんなに好きになっちゃうぐらいならちゃんとした出会い方したかったと思うもん。」
「で、何が心配なの?」
「んー・・・・そういう付き合い方をしたからかな・・・。
 彼の本心が分からないの。」
「あー・・・本当に好かれてるかって?」
がビールに口をつけた。
「うん・・・。
 聞きたいけど・・・・聞いちゃいけない気がして・・・・。
 私の方が年上なのに、ハヤテ君の方が年上っぽく感じるし。」
「まぁ、お前って恋愛すると直球タイプだしな。」
「でしょ?
 なんでもストレートに表現するし、してほしい。」
「んー・・・・・。あ、そうだ。」
が手を叩いた。
「じゃさ、ヤキモチ、焼かせてみれば?」
「どんな?」
「他の男と仲良くするとか・・・。」
「そんなことぐらいでヤキモチ焼くような歳?
 会社の人って言ったらそれまでよ。」
「じゃあ・・・・キスマーク。」
「はぁっ?!」
意外な言葉に大声を上げて、自分で口を押さえる。
「お前らって、まだ・・・なんだろ?
 だったらキスマークとかついてたら、自分じゃないわけじゃん。」
「それでなんて説明するのよ。」
「んー・・・蚊に刺されたって言えば?」
「見ればすぐ分かるって!!」
「だからいいんじゃん。」
「うー・・・そうなの?」
酔っ払って思考回路がめちゃめちゃな私は頭を抱えた。
「俺がつけてやるよ。」
「えー?」
「他に頼めるヤツ、いんの?」
「いない。」
「じゃ、俺で我慢しろよ。」
「んー・・・・いいの・・・かなぁ・・・。」
まだ迷いながらも手招きするの隣に移動する。
「付けるぞ。あ、休み明け会議だっけ?んじゃ見えない位置な。」
「あい。」
1つボタンを外し、鎖骨を差し出すと、そこにが唇を当てた。
しばらく吸引力を感じて、が離れると自分の席に戻る。
「おー、ばっちり。」
「ホントに?」
手鏡で確認すると、そこには小さな紅い痕があった。
「いいのかなぁ・・・・。」
「イヤだったら、隠してればいいじゃん。」
「あんた、他人事だと思って・・・。」
笑ってるを軽く睨んで、新しいカクテルを注文した。






































ラストオーダーの時間までいて、私たちは店を出た。
時計は早朝5時をすぎている。
微妙に空が白くなってる気がする。
女が一人で歩くのにはまだ暗くて危ないから・・・と、がアパートの前まで送ってくれた。
「お茶でも飲んでく?」
「いや、いい。今布団見たら間違いなく爆睡する。」
「そぉだね。じゃ、今日はありがと。」
「おう、気にすんな。」
は笑って来た道を戻っていった。
「さぁて・・・と・・。」
帰ってシャワー浴びて寝ようかな。
踵を返しそうとしたとき・・・。



















シュンッ・・・・・。



















何かが私の前に降って来た。




「・・・・!!ハヤテ君・・・・?!」
降って来たのはハヤテ君だった。
「残業、お疲れ様でした。」
ハヤテ君は笑顔だった。
「どうしてここに・・・?!」
さんが心配だったので待ってました。」
「待ってたって・・・・ずっとぉ?!え?だって今日早朝から任務だって・・・。」
「はい、これから任務です。」
「そんな・・・・!」
そこまで言って、自分の格好に気付く。
飲んだせいで暑い・・・ということで、私は上着を着ていない。
着ていないどころか・・・・。
「おや?蚊に刺されたのですか?」
ハヤテ君の言葉に咄嗟に襟元を閉めた。
「あ、うん。会社に蚊がいてさ。痒くって・・・。」
「そうですか。まだいるもんなんですね。」
まだ暗いから、キスマークだとは気付いていないみたい。
ほっとしつつも、ハヤテ君の笑顔が痛い。
さんに会えたことだし・・・・行きますね。」
ハヤテ君が私の横を通り過ぎようとした。
「あ・・・・!ハヤテ君・・・!!」
「はい?」
「せめてお茶だけでも・・・・!!体を暖めないと・・・!!」
「さっきの彼の代わりですか?」
さっきの・・・・彼?



のことだ。



「あ、あいつは会社の同僚で・・・・。」
「第一・・・・。」
一生懸命説明しようとしている私の言葉を遮って・・・・。




「今のあなたを明るい場所で見たくありません。」



心臓が凍るかと思った。



それぐらい冷たい笑みを浮かべているハヤテ君。




「あ・・・・あの・・・・。」
さん。」
ハヤテ君の優しい声。










「もう・・・・大丈夫ですね。」
「え・・・・?」










何かが頭の片隅でチカチカしてる。











「もう、一人でも大丈夫ですね。」











嫌な予感。










「私がいなくても、あなたを支えてくれる人がちゃんといる。」









だめだよ、ハヤテ君。









「あなたはもう弱ってはいない。」










だめ、やめて。










「私がいなくても大丈夫ですね。」









にっこり微笑むハヤテ君。










心臓が何かに握られているように痛い。










「今までありがとうございました。」











咳をしながら、ハヤテ君は白み始めた空を駆けて行った。





























しばらくハヤテ君の駆けて行った方角を見ていて。
体がすっかり冷えていることに気付いて私は部屋に向かった。
ドアの前が一部きれいになっていて。
触れてみたら・・・・。













暖かかった。












ポツン・・・・。













涙が零れる。




次から次へと。




地面の床に残る暖かさを求めて手を握り締める。




















ハヤテ君は忍なんだよ?











特別上忍なんだよ?










きっと・・・・ううん、絶対。










鎖骨にある痕に気付いていた。
































私はなんてことをしたんだろう。











なんでハヤテ君を試すようなことをしたんだろう。











彼が私をどう思ってるか・・・なんて。










今となってはどうでもいい。











彼が隣にいてくれれば、それだけでよかったのに。










どうして欲を出してしまったんだろう。











どうして、今の幸せだけに満足できなかったんだろう。

























今、私に分かることは。















もう、彼は私の隣にくることはない。













ただ、それだけ。





















             

はい、ハヤテです。
ハヤテは初挑戦だったので、イメージぶっ飛んでしまった方、ごめんなさい。
つか、ハヤテ、全然咳してなかったし!!!!
どのタイミングで咳したらいいか分からないよぉぉぉぉ!!!!
しかも、続きモノにしてるしさぁ・・・・。
ま、できる限り、頑張ります。




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