卑怯な女。


汚い女。

浅ましい女。





私はとことん、汚れてる。











































汚れた涙に温もりを











































情緒の後に部屋を舞う煙を見つめる。
ふわふわ、ふわふわ。



ベッドの上で心地いい気だるさ。
隣には・・・・愛しい男。
愛しい男の吸う煙草の煙は。


なんてきれいなんだろう。


「このまま寝るか?」
「んー・・・明日は任務だしなぁ・・・。」
「んじゃ、寝ろ。体がもたねーぞ。」
「でも・・・・・だーめ。帰るわ。」


自分の体に葛を入れて、体を起こす。


「きれいな・・・・体だな。」
「ふふっ・・・ありがと。」


隠すこともなく風呂場に移動して勝手にシャワーを浴びる。
暖かいお湯が、情緒で流した汗を流していく。


体を拭いて、服を着て。
帰る準備をしている私を、愛しい男がじっと見ている。


「じゃ、また明日ね。アスマ。」
「おう、頑張れよ。。」


ベッドから出ようともしないアスマに手をあげて。
白む夜空の中、私は誰もいない自分の部屋に帰る。
































アスマと夜を共にするようになって、どのくらい?
・・・・・もう覚えていない。


アスマを愛しいと思うようになって、どのくらい?
・・・・・・・もう、ずっと。


アスマに告白しようと思って、どのくらい?
・・・・・・・そんなの・・・・考えたことないってば。


































私に回ってくる任務は至極シンプル。
里の必要としている情報を持つ男に抱かれること。
俗に言う『色』だ。


誰もが嫌がる『色』の任務。
そりゃそーだ。
好きでもない男に体を触られるんだから。


私だって、嫌だ。


だけど、そうも言ってられない。
誰かがやらなきゃ。
里の為にならない。


そう思って引き受けていたら。
気付けば、『色』専門のくの一になっていた。










































「見て!あの人、『色』専門の・・・・。」


久しぶりに仲間内で飲もうとなって。
カカシや紅、アスマに珍しくハヤテと一緒に歩いてた。


さっきの言葉に立ち止まった紅の腕を引く。
紅のなんとも言えない顔に笑って見せる。


「なんであんな人がカカシさんと一緒にいるのよ!!すっごくショックなんだけど。」
「『色』しかできないくせにねぇ?」
「『色』のベテランってのも嫌だけどねぇ。」
「それ言えてる!!」


聞こえよがしの言葉。
きっとカカシのファンなんだろうね。


「っ・・・・!!」


カカシがその女の子たちのグループを睨んでいた。
つられたのか、みんなして。


「ちょっと・・・・何してるのよ。」


呆れた声でみんなをたしなめる。
こんな町のど真ん中で上忍トップクラスの面々がそんな派手に殺気飛ばしてどーするの。


は気にならないの?」
「んー?もう慣れた。」
「でも、私たちは慣れません。仲間の悪口なんて。」
「悪口って思うからでしょーよ。」
「ハヤテ、あの子達の名前後で教えるから次の任務に『色』回せ。」
「了解です。」


カカシ、ハヤテ・・・。
それを職権乱用って言うのよ。


「はいはい、そこまで。店混んで座れなくなっちゃうよ?」


二人の肩を叩いた。


「見た?!今の見た?!」
「見た見た!!」


突然女の子たちが騒ぎ出した。
・・・・私、何かしたか?


「汚れた手でカカシさんとハヤテさんに触った!!」
「許せない!!」


汚れた・・・・手。


「あんたたちねぇっ!!」
「・・・紅っ!!」


女の子たちに飛びかかりそうな紅の腕を掴んだ。


「ちょっと!!離しなさい!!」
「いいから!!」
「よくないわよ!!誰のお陰で自分たちが『色」しなくて済んでるのか教えてあげるのよ!!」
「そんなの教えなくていいから!!」
「あんたは許せても私が許させないのよ!!」
「落ち着いてよ!!紅!!
 こんなの今日に始まったことじゃないでしょ!!
 今ここであの子達に説教したところでまた別の子達は同じことを言うんだから!!」
「その度に説教してあげるわよ!!」


私と紅のケンカになってる。
どうしてこうなるの?


「紅、その辺で止めておけ。」
「アスマ・・・・っ!!」
「今ここにいる誰よりも傷ついてるのはだろ。
 ・・・・・・・・傷口をえぐるな。」
「・・・・・・・ごめんなさい・・・・。」


アスマに言われて、紅はしゅん・・・となった。


「気にしないの。んじゃ、飲みに行こう!!」


私の掛け声と共に、みんなして足を進める。
カカシとハヤテは今だあの子達に殺気飛ばしているけど。


ふと、気付いた。


私の前をアスマが。
私の隣をハヤテと紅が。
私の後ろをカカシが。


歩いていた。
みんなの視線から守るように。



嬉しい。


反面。


情けない。








私はみんなと普通に歩けはしないのだろうか――――――――――。













































居酒屋でも同じことが起きた。
飲みに来ていた他の忍たちに腕を掴まれた。

私、一人の時に。


「なぁ。『色』ってどんなことすんの?」
「ノーマルに奴らだけじゃねーんだろ?」
「んじゃかなり淫らな経験豊富なんだな。」
「たまに俺たちの相手、してくれよなぁ。」


ちらっとアスマたちのいる個室を見る。
ぴっちり締められた襖。


・・・・・・・よかった・・・・気付いていない。


「相手してやってもいいけど、それならちゅんと依頼してね。」
「依頼なんてめんどくせぇことしなくてもいいじゃん。」
「そういうわけにはいかないわ。私にだってプライドあるし。」


任務だから、出来るだけのこと。


「プライドだってよ!!」
「男に抱かれることにプライドなんてあんのかよ!!」
「ないない、絶対ない。」


勝手なことをベラベラと。
よく喋る男ども。


「んじゃ、教育ってことで。」
「そそ、俺たち男にだって『色』の任務あるからな。」
「お勉強ってことで・・・・一発・・・。」


最後の男が言い終わる前に。
男たちのテーブルにクナイが飛んできた。


「その汚い手、離してもらおうか?」
「・・・カカシっ!!」


カカシは男の手から私の腕を開放した。


「悪いけど、は上忍師ではないからお前たちを指導できないんだよね。それに・・・。」


カカシの手が男の顎をつかんで上を向かせた。


「第一、そんなことは俺が許さない。」


至近距離でのカカシの殺気は本気で怖い。
男たちは金を置いて、逃げ出した。


「ったく・・・油断もスキもない。」
「カカシ・・・・どうして・・・・。」
「俺、聴覚いいから。」


ケロッと言ってたけど。
この雑踏の中で私とさっきの男たちの声が聞こえるなんて・・・。


「・・・・ありがと。」
「どういたとまして。」


カカシの柔らかい笑み。
ほっとするのが自分でも分かる。


個室に戻ろうとして、個室の前にアスマが立ってることに気付いた。


「・・・・・大丈夫か。」
「・・・・・ん。気にしてもしょうがないし。」


私を見る目は、戸惑いの色を宿している。
見たくない、色。


「じゃ、気分転換に飲みましょう!!」


明るい声を出して個室に戻った。
中には今の出来事に気づいていない紅とハヤテが楽しそうに笑っていた。

































解散は深夜の2時だった。


「じゃ、お疲れ様。」
「お疲れ。」
「気をつけてね。」


それぞれが家に帰ろうとする。


「あ、アスマ。」
「ん?なんだ?」


アスマを手招きする。


「紅と同じ方向なんだから、送ってってあげなさいよ。」
「ぁあっ?!」
「いいじゃん、別に。」
「・・・・ったく・・・しょーがねーな・・・・。」


ぶつぶつ言いながら、アスマは紅と一緒に歩き始めた。













痛イヨ――――――胸ガ――――――。















「じゃ、カカシ、ハヤテ、お疲れさん!!」
「あー、。お前は俺が送ってくから。ハヤテは帰っていいよ。」


カカシにしっしっとやられて、嫌そうな顔をしながらもハヤテは姿を消した。


「一人でも平気だよ。」
「だーめ、女の子なんだから。」
「でも、私忍ですから。」
「ここに住んでる大抵のやつは忍だね。」


有無を言わせない笑顔に渋々従って。
カカシと一緒に歩き始める。


「手首、大丈夫?紅くなってたけど。」
「うん、大したことないよ。慣れてる。」


手首を縛られるのなんか、序の口だわ。


「・・・・・・嫌じゃないの?」
「何が?」
「・・・・・ああやって言われ続けることに。」
「・・・・・・・慣れたかな。」
「・・・・慣れないでしょ。」
「任務と同じ。何事も慣れるわ。」


カカシが近くの自販機でコーヒーを買ってくれた。
プルトップを開けて、一口飲んだ。


「・・・・・いいの?」
「だーからー・・・・・。」
「アスマのことだよ。」


カカシの言葉に危うくコーヒーを落とすところだった。


「分かりやすくていいよ、今の。」
「・・・・何が?」
「・・・・好きなんでしょ?」
「・・・・どうして?」
「どうしてって・・・・。そんなの、見てれば分かるでしょ。」
「でも・・・紅やハヤテは気付いていないわ。」
「そりゃあ・・・見てないからでしょ・・・。」


カカシが立ち止まった。


「俺はいつも見てるよ、のこと。」
「・・・・・・・・カカシ?」


胸が締め付けられる。
痛いぐらいに。


カカシの目は真っ直ぐに私に向けられていて。
その目に耐えられるほど・・・・私は強くない。


「どうしてアスマに言わないの?」
「どうしてって・・・・・私は・・・・・。」


汚れてしまった、この体。
自分でも泣きたくなるほどに。


自覚してるのに、アスマに抱かれてる。
この体でアスマを汚してる。


その上で思いを伝えるなんて・・・・。


「そんなに・・・強くない。」
「ねぇ・・・1つ聞いていい?」
「・・・・何?」


私が顔を上げると、カカシは笑っていた。


「どうして『色』の任務、受け始めたの?」
「・・・・・それは・・・・・・。」


カカシは言葉に詰まってる私の背を押して、近くの公園へ歩かせた。
ベンチに座る。


「・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・。」


無言で貫こうと思ったけど。
やっぱりカカシには敵わない。
カカシも無言で私の言葉を待ってる。


「・・・・・初めて『色』の任務を受けたのは15歳のときだったわ。
 まだ経験すらなかったのに・・・・。」
「『色』は経験ある忍が選ばれるはずだけど?」
「うん・・・・私、嘘ついたから。」


歳相応になれば、自然と回ってくる。
でも『色』の任務は経験者のみ。
だから、任務を聞かされ前に、経験者かどうか・・・・聞かれる。
そのときに経験はないと言えば、回避できる。


だけど、私は回避しなかった。


「私が断れば・・・あの任務は友達に回るのが分かってたから・・・。」


私は目がいい。
だから見えてしまった。


私の書類の下に、友達の書類があったのを。


「当時好きだった男の子がいてね。
 その人、友達のことが好きだったの。その逆も然り・・・ね。」
「・・・・・・・・・・・。」
「二人は付き合っていなかったから・・・・。
 よく相談に乗ってあげてて・・・・あのときは居た堪れなかったなぁ。」
「・・・・・・・・・友達を・・・・守るため・・・?」


好きな男の子は、友達が好きで。
友達もその男の子が好きで。
でも、私より年上の友達は既に経験済み。
しかも、友達は責任感が強くて回ってくる任務を断ることは絶対にしない。


私はなんとかしてあげたくて。
男の子が傷つくのも、友達が傷つくのも。
見たくなかった。


「忍やってればいつか『色』は回ってくるけど・・・・。
 それでも・・・・友達に回る回数を・・・減らしてあげたかった。
 彼女、潔癖なところがあるから・・・・。」
「・・・あぁ・・・そうだね・・・。」
「でしょ?神経質な紅より、ずぼらな私のほうが『色』には向いてるわ。」


守りたかった友達・・・・紅。
好きだった男の子・・・・アスマ。


昔から変わらない方程式。


「でも今は紅だって『色』の任務についてるし、理解してる。
 だからが全てを受けることは・・・・。」
「それでも・・・・紅が『色』の任務を受けるたびに・・・彼は傷つく。」


好きな女が『色』の任務に行く時。
彼は必ず他の女を抱く。


そこに私は付け入った。


私を抱きなさい。
他の女を抱いてたら、変な噂が立つから。
私なら、ずっと黙っててあげるから、って・・・・・。


アスマの体を汚した。


体でしか繋がりを作れない女。
卑怯な女。
汚い女。
浅ましい女。


私はとことん、汚れてる。


「・・・・泣きたくならないの?」
「涙はとっくの昔に枯れたわ。
 悪口にだって、罵声にだって、もう慣れた。
 言いたいヤツには言わせておけばいいのよ。」
「・・・・・・でも・・・・泣きたいときは泣いたほうがいいでしょ。」


カカシの手がぽんぽん・・・と頭に触れた。


「男だって『色』の任務、あるんでしょ?」
「まぁね。でも俺たちは・・・・抱く側だから。
 抱かれる側の辛さとは・・・比べ物にならないでしょ。」
「そういうものなのかな。」
「そうなの。」


くすくす笑うカカシと私。


「・・・・でも・・・・辛いことには変わりないわ。」
「・・・・は人には優しくでくるのに・・・どうして自分には優しくできないの?」
「・・・・さぁ?」
「俺が優しくしてあげようか?」
「カカシには十分すぎるほど優しくしてもらったわ。」
「今以上に。」
「それは・・・・遠慮しとく。」
「なんで?」
「カカシに悪いから・・・よ。
 それに・・・・私にだって・・・・プライドはあるわ。」
「それは失礼。」
「いえいえ。」
「これってさ、俺、振られちゃったのかな。」
「多分・・・振られちゃったみたいよ?」
「あーあ・・・初めての体験だよ、これ。」
「でも・・・・ありがと。本当は・・・すごく嬉しい。」
「・・・泣きたくなったら・・・いつでもおいで。こう見えて、俺ってすごく気長だからね。」
「・・・・・うん・・・ありがと。」


カカシの気持ち、すごく嬉しい。
だけど、それには答えられない。


だって私が好きなのは・・・・昔からずっと、アスマだから。
それこそが・・・・私のプライド。







        

はい、お礼リクでぇす。
ミホ様からのリクエスト。
内容は「アスマで切ない系(泣かせます)!紅たちとも仲良し」ってことです。


つか、リクなのに、長編?
続いちゃってるし、コレ。
つーか、アスマの登場、少なくね?
カカシ夢っぽくね?

すすすすすすすすすすすいません!!!!
せつないの、大好きなんです。
んで、ついつい長くなっちゃいました。
長いから切ないのかと聞かれれば、そうでもなかったりします。
ついでに、カカシは私が大好きです。


ミホ様、ごめんなさい!!
でも、ほら。
楽しみは長いほうがいいでしょ?(汗

え?
別に楽しみにしていないって?(冷や汗
すすすすすすすいません・・・・。


初のアスマ主演でした♪