見えない
何も見えない
見たくない
何も見たくない
初めて見たよ
そんな笑顔
私にも笑ってよ
優しい笑顔で
私だけに
梅雨
の電話から2週間が立った。
その間に何度かカカシと会っていた。
言わなきゃ・・・・。
分かってる。
分かってるんだけど、いざ言おうとすると・・・。
カカシが離れていってしまいそうで・・・。
言えなかった。
「最近、雨ばっかだね。」
カカシが窓の外を見ながら呟いた。
今日はカカシの家に来ていた。
「うん・・・・。」
例の如く、抱き合った後。
私はベッドの上に座っているカカシの太ももにアゴを乗せてぼんやりしていた。
「こういう時の任務ってやり辛いんだよねぇ。」
「そーだねー・・・。」
カカシの言葉に適当な相槌を打つ。
「・・・どーしたの?」
「へ?何が?」
「・・・らしくないよ?」
「そーかな?」
「うん・・・何かあった?」
「べっつにー?何もないよぉ?」
心配そうに顔を覗き込むカカシから逃げるように、カカシから離れて笑ってみせた。
「・・・それなら・・・いいんだけど・・・ね。」
胸が痛い。
でも、言わなきゃ・・・。
「あ。」
いかにも今思い出したような声をあげてみせる。
「ん?」
「わっすれてたんだけどさぁ。」
「どーしたの?」
ギュッ・・・・と拳をにぎる。
頑張れ、私・・・・。
「会いたいんだって、が。」
途端にカカシの顔が真顔に変わる。
「けっこう前に電話きてさ。
久しぶりにカカシに会えたから、また会いたくなっちゃったんだって。」
「・・・・・・。」
「でも、カカシの連絡先、知らないみたいだから私のところに電話きたのよ。
カカシって恋人に連絡先とか教えないの?」
「引っ越したから・・・・。」
「そっか。まぁ、それはいいとして・・・・・。」
言葉が続かない。
何か言わないと・・・。
言わないと・・・・。
「いいの?」
カカシが呟いた。
「何が?」
明るく聞き返す。
「・・・それでいいの・・・?」
よくないよ。
いいわけないじゃん。
絶対にイヤだよ。
でも・・・。
「なんで私に聞くの?
二人の問題なんだから、私は関係ないじゃん?」
精一杯・・・・明るく言ってあげた。
「・・・・そう・・・・。」
ため息まじりのカカシ。
「よくある話じゃない?
昔の恋人とばったり偶然会っちゃうとまた連絡とりたくなっちゃうって。
あー、私も昔の男と連絡とりたくなっちゃったなぁ。」
「君に恋人がいたの?」
カカシの驚いた顔。
「そりゃいましたよ。」
でも、カカシと比べれば比にならない。
今まで生きてきた中でカカシ程恋焦がれる人はいない。
「そっか・・・。」
「だから、と連絡とってあげて?」
「・・・・ん・・・・。」
カカシの返事を聞いて、私は・・・・。
複雑・・・・だよ。
それから私は任務が続いた。
暗部として動いている時。
私は何も考えなくてすむ。
カカシのことも・・・・考えたくない。
「やっと終わった・・・。」
立て続いた依頼の最後の任務を1日早く終わらせて、火影様にも報告した。
まだ日が高かったから火影様の配慮で火影様の家のお風呂を借りてさっぱり。
さーて、今日の夕飯でも考えなきゃ・・・。
一人暮らしの辛いとこだなぁ・・・・。
今日、カカシは来るのかな?
大体の日数をカカシには伝えてあった。
でも、私が大抵の任務を早く済ませてしまうのはいつものことだし・・・。
カカシが来るならカカシの分も作らなきゃ・・・。
ちょっとウキウキしながら街を歩き始める。
いろんな店をフラフラしながら献立を考える。
魚屋のおじさんが秋刀魚を安くしてくれた。
さ、家に帰って・・・・。
何、あれ・・・。
動けなかった。
1つの店に目が釘付けになる。
おしゃれで人気のある喫茶店の中。
見慣れた姿が2つ。
楽しそうに会話してる。
と・・・・カカシ・・・・。
楽しそうに微笑みあいながら・・・。
流れる人ごみの中、立ち止まっている私に気付かない。
へぇ・・・?
とはお洒落な喫茶店で、私はお持ち帰りの牛丼ですか。
ふぅん・・・・。
見えない。
何も見えない。
見たくない。
何も見たくない。
初めて見たよ。
そんな笑顔。
私にも笑ってよ。
優しい笑顔で。
私だけに。
私は・・・・・走っていた。
まるで逃げるように。
帰ってきた私は、自分でも驚くぐらいに動揺してた。
自分の家なのに、知らない家に来ちゃったみたいで。
挙動不審に目が泳ぐ。
そして最初にしたこと。
秋刀魚を1匹だけ捨てた。

はい、カカシ長編第5話です。
いかがでした?
んー、核心に迫ってるんですけどね。
BGMはDissonance様よりお借りしました。